ドイツフォレスターの野生動物管理⑧
ドイツ研修7日目
ドイツにおける狩猟という文化について ※下方に解体をしている写真があります。ご自分の判断で閲覧ください。
本日のブログは、クリエーター科1年の長 航介が担当します。
今回の研修も残り2日となりましたが、7日目の今日は、私にとって特に印象深く、この研修の意味を自分の中で整理できた一日でした。今回のドイツ研修を通して、私は改めて岐阜県立森林文化アカデミーに来て良かったと心から感じています。
私は外で働くことが好きで、林業の仕事に就きたいと考えてきました。祖母が林業に携わっていたこと、そして地元である日光市の自然環境がシカによって大きな影響を受けている現状を見てきたことが、その原点にあります。
また、日光市のホテルで働いていた経験から、自然の豊かさを「観光資源」として利用する一方で、ただ使うだけの状況に違和感を抱くようになりました。自然を利用してきたのであれば、その責任を自然を守ることで果たす必要があるのではないか。そう考えるようになり、林業だけでなく野生動物管理も学べる森林文化アカデミーへの進学を選びました。

日光市の風景、男体山と中禅寺湖
本日は、バーデン=ヴュルテンベルク州(BW州)の狩猟協会を見学しました。州の狩猟協会は長い歴史を持ち、多くの狩猟者を抱える組織です。近年では、生態学や林業の視点をより強く意識した新しい狩猟団体に属する人も増えてきている一方で、州の狩猟協会自体も野生動物管理や自然保護の重要性を十分に認識しています。ただ、歴史が長く会員数が多いがゆえに、伝統的な狩猟観が根強く残っている側面もあり、ドイツの狩猟文化もまた、変化の途中にあるのだと感じました。

BW州の狩猟協会のオフィス前に設置されたイノシシのモニュメント
一目で「狩猟に関わる組織」であることが伝わる佇まいが印象的だった。
ドイツでは、シカやイノシシをモチーフにした彫刻や置物を街中でよく目にする。
ドイツでは気候変動への対応として、ドイツトウヒに依存した森林から、より多様な樹種構成への転換が求められています。しかし、アカジカによる食害が顕著な状況では、再造林コストを最小化できる天然更新が成立せず、防護柵やチューブなどの追加的な保護が不可欠となります。その結果、これまで想定されていなかったコストが発生し、野生動物の個体数管理が森林経営の手法や戦略そのものに直結していることを、森林官たちは極めて現実的に捉えていました。

BWの州狩猟協会にて。 狩猟だけでなく、アカジカの遺伝的多様性の保全や、希少な野生動物を守るために小型肉食動物の罠猟を勧めるなど、多くの自然保護活動を担っていることに強い驚きを覚えた。

BW州の狩猟協会のクラウス部門長とサイモン氏とともに
午後には実弾射撃訓練も体験しました。引き金を引くわずかな動作で生じる大きな音と衝撃は、想像以上に身体へ訴えかけてきます。射撃訓練は技術を学ぶ場であると同時に、自分がどこまで安全に銃を扱えるのかという「許容範囲」を知るための時間でした。狩猟とは、単に撃つ行為ではなく、撃つという判断に責任を持つ行為なのだと強く実感しました。※ドイツでは適切な指導者が同行していることで銃を扱うことが許されています。

実弾射撃訓練の様子。バイムグラーベン先生から一つひとつ丁寧な説明を受けながら、 狙いの定め方や姿勢を確認していく。

射撃場の1階に広がる、巨大な木造架構によるドーム状空間。
この建物の地下に、本格的な射撃訓練施設が設けられている。
木造建築と狩猟文化が自然に結びついている点も印象的だった。
射撃訓練の後には、解体処理施設FRIMAを再訪しました。この日は国立公園内で大規模な巻狩りが行われ、仕留められたアカジカやイノシシ、ノロジカが計50頭以上続々とと運び込まれていました。夜通し行われる解体作業の現場は非常に活気に満ちており、どこかお祭りのような雰囲気すら感じました。狩猟によって捕獲された獲物が、確実に食肉として流通する基盤があるからこそ、狩猟は文化として社会に根づいているのだと感じました。

解体作業には小学生低学年ぐらいの子供も大人顔負けの働きぶりで手伝っており、ドイツの食肉文化の豊かさの基盤はここにあるのかと感じた。
まとめ
今回の研修では、ドイツのフォレスターにとっての野生動物管理という分野を軸に、狩猟がどのような役割を担っているのかを深く学ぶことができました。研修の初日から最終日に至るまで、日を追うごとに理解が積み重なっていく感覚があり、狩猟という行為が単なる捕獲ではなく、文化や制度、そして社会の中で機能していることを実感しました。
狩猟文化の厚みを強く感じることができたのは、実際に現場を自分の目で見て、同じ「狩猟」という分野であっても、巻狩り一つを取っても、学校主催の大規模なものと地域主催の小規模なものなど、異なる形を比較して体験できたからだと思います。複数の現場を知ることで、狩猟が状況や役割に応じて柔軟に行われていることが理解できました。
このような貴重な学びの機会を与えてくださったバイムグラーベン先生、そしてロッテンブルグ大学の皆さま、そして小原さんには常に真摯に私たちの通訳をしてくださり改めて心より感謝申し上げます。今回の研修で得た視点や問いを、日本の森林や狩猟文化と向き合う中でも大切にし、これからの学びにつなげていきたいと思います。

研修の最後に、宿泊していたホテル前で記念撮影。バイムグラーベン先生と小原さんには改めて感謝申し上げます。
あとがき
今日もあれ?1日の出来事だったっけ?と混乱するほどボリューム満点な視察研修でした。狩猟協会もMSZUも第一印象としては、とってもスタイリッシュで日本の狩猟関係の施設とは大きく雰囲気が違いました。このような場づくりも若者を巻き込む1要素なのかもしれませんね。
報告:引率教員 新津裕(YUTA)
過去の活用報告
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