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2025年12月20日(土)

ドイツフォレスターの野生動物管理➄

ドイツ野生動物視察研修4日目の午後の報告をいたします

午後はシューンブーフ自然公園に行きました。ここはBW州では数少ないアカシカが生息しており、外周40㎞の柵に囲われています。

ところで皆さんは森林立ち入り権というものをご存じでしょうか?これは簡単に言えばだれでもどこの森林に入ってもいいという権利だそうです。このシューンブーフにある自然公園も州による指定の保護区に当たるのですがそういった権利で誰でも立ち入ることができるようになっていることに私は驚きました。

親子連れの散策でにぎわっていました

この保護区内ではアカジカが内側にある別の柵の中で保護されており誰でも見られるようになっています。管理は州が行っており、州の森林官の方が毎日1人は確認に来ているようで、餌としてトウモロコシや牧草が与えられていました。


この保護区内では森林官の方が森林を管理しており、ところどころに作業道が点在していました。公園の散策道から少しだけ道を外れ、施業地がどのようなのかを見学させていただきました。ついてみると結構開けていました。 伐採して木材を出した後なのかと思っているとどうやらそういうわけでもないようで、もともとはドイツトウヒが生えていましたが、気候変動やキクイムシの侵入など、長期的、短期的な要因が重なって木が減ってしまったようです。

フンや捕獲した個体を検査したことでこの保護区にはおよそ450頭ものアカジカが生息していることがわかっています。アカジカはたくさん餌を食べるのでトウヒの食害どころかノロジカのいる森では見られなかったブラックベリーの採食痕まで見られました。8年前に行われた糞の解析からの調査から、現在では一番確実性があるドローンを使用し、サーモカメラで確認する方法へ変化しているようです。


ほかにも近くの立ち木を見てみると結構な数の樹皮を剝いでいる被害が見られました。これはシカが角をこすったり、樹皮の下にある形成層を食べる食害が原因です。この林分では1年でおよそ3%の被害が出ているようです。それが毎年同じ量被害を受けると30年で90%のエリアが被害を受ける計算になってしまいます。
アカジカが増えた理由としては歴史・政治的な背景もあるそうです。

 

夕方からはFRIMAという解体処理施設を見学させていただきました。

ここではどこでとれたか、どんな環境で育ったかを重視しています。どんな環境でというのはFRIMAでは羊肉も取り扱っているためそこからきていると思われます。
流通に関しては他の地域でも販売ができるそうですが、運搬コストがかかるため、基本は地元のみで販売を行っているそうです。

この解体処理施設は精肉や加工まで様々なことを行っています。これはEU認証をとっていなければ出来ず、冷蔵庫以外の場所でも12度以下に保つ、食肉の移動は一方通行になるようにするなどの様々な要件を満たし、衛生管理を徹底した解体処理施設なのが分かります。また、抜き打ちチェックが入ることもあるらしく常時清潔な状態を保っているそうです。ちなみにEU認証をとっていない場合ブロック分けまでしかできず、なおかつ販売するときは1頭単位で売らなければなりません。


この解体処理施設では驚くことに初年度で500頭、今年は1000頭ほど捌いてきているようです。クリスマスシーズンの繁忙期となる先週は1週間でなんと350頭も捌いたらしいです。
10月~1月は猟期でかき入れ時ですがその時期を過ぎると入荷されなくなるため冷凍保存でストックをしておいていつでも加工できるようにしていたり、羊肉の処理を行うなど様々な工夫がされていました。

さて、本日おこなったことの感想としてはまず、猟犬の育成については初めて知ることばかりだったのですべてが興味深い話でした。猟犬は様々な試験をクリアしてやっとで実践に投入することを知って驚きました。射撃のシュミレーターについては銃の取り扱いの練習としてはとても良いもので、学校の授業の一環として導入するのは大いに価値のあることだと思いましたがそれなりの費用が掛かるので、導入が厳しそうなのが残念な所ではあります。自然公園はまだまだ語り切れてない部分が多く、特に環境教育としての要素が想像よりも多かったと思います。例えば、ちょっとした砂場があってその横にはどういう身近な動物がどれだけの距離跳ぶかという場所がありました。

それで簡単に遊んだ後で通り道にはこういうアカジカがいたんだよっていう自然な形で伏線を張っているところが自然に触れやすい部分だと感じました。これは日本でも応用できればいろんな人に自然に対する興味というのが持ちやすくなるのではと感じました。また、キクイムシの被害については様々な要因こそ重なっており、ある種の悪循環が出来上がっているように思いました。FRIMAについてはやはりEU認証というだけあって衛生管理がとても素晴らしく感じました。日本でも学ぶべき要素というものがとても多かったです。衛生管理の徹底、ドイツでのオーガニック志向の増加に合わせた食肉の供給、純粋な社員の方バイタリティなどなど、我々にはまだまだ見習うべき部分が多いように感じました。

森と木のエンジニア科 24期生 田中大晴

 

あとがき

いままで見てきた地域はイノシシとノロジカの被害についてみてきましたが、今回はアカシカの様子を見ることができました。この公園に来るまではどうせ同じシカだろうという想像でしたが、長距離移動しないこと・採食圧が高いことが相まって、アカシカの多いエリアでは全く森の様子が異なっていました。また、森林立入権によってさまざまな人が森に入ることで、いい側面と課題解決に最短距離でいけない難しさも感じ取ることができました。今回の視察研修は多くの視点で森や野生動物に触れる機会を設けていただき充実した研修です。学生の頭の中も刺激いっぱいで整理が追い付かないため、記事の更新が少しゆっくりになりそうです(笑)今後をお楽しみに! Byユタ

クリスマスシーズンで休みなく働いている中、我々の為に夜間に視察受け入れをしてくれたFRIMA経営陣のお二人

 

過去の活用報告

1日目

2日目

3日目

4日目 前半

報告:引率教員 新津裕(YUTA)