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2025年12月15日(月)

展覧会レポート 「宇宙のくらしをつくる建築展」 に行ってきました

木造建築専攻2年の銭です。

先日、東京建築会館ギャラリーで開催された「宇宙のくらしをつくる建築展|Lunar Architecture by TAKENAKA」に行ってきました。

展示を拝見するうちに、アカデミーの理念と重なる点を感じたため、その感想や考察をブログ記事としてまとめてみました。

竹中工務店の宇宙建築タスクフォース「TSX (Takenaka Space eXploration)」が主催するこの展覧会。会場に足を踏み入れると、そこには単なるSF的な夢物語ではない、技術とリアリティに裏打ちされた「未来の生活」が広がっていました。

今回は、展示のハイライトとともに、建築、そして、木工、林業、環境教育の視点から感じた、これからの宇宙建築についてレポートします。

フェーズで見る「月面移住」へのロードマップ

今回の展示では、月面開発のプロセスを明確に5つのフェーズに分けて提示していた点が印象的でした。

フェーズ1:月面で居住可能な環境を探査するための小型ロボット群

フェーズ2:ベースキャンプ(宇宙飛行士が生活できる滞在モジュール)

フェーズ3:中長期の月面移動型居住シェルター

フェーズ4 長期運用モジュール

フェーズ5:ルナタワーと円形フレームを組み合わせ、長期居住のためのインフラを構築する

それぞれの段階に応じて、TSX独自のコンセプト案が提示されていました。「いつか住めたらいいな」という漠然としたものではなく、「まずはロボットで足場を固め、次に仮設テントのようなモジュールを送り…」という、建設会社らしい着実なステップが印象的です。

 

「見せるための計画」から「実現するための計画」へ

かつてのバブル経済期にも、多くの企業が壮大な宇宙開発計画を打ち出していました。しかし、それらはどこか「企業の株価を上げるためのアドバルーン」のような側面があったことは否めません。

しかし今は違います。SpaceXによるロケット回収技術の確立を皮切りに、民間主導の宇宙開発が現実のものとなり、コストも劇的に下がっています。 今回の展示からは、かつてのような「見せるための計画」ではなく、「ビジネスとして、そして人類のフロンティアとして、本気で実現しようとしている」という熱量が伝わってきました。

 

アカデミーの視点:宇宙における「FbS」の可能性

ここからは、建設の視点だけでなく、林業・木工・環境教育の視点で、この展示をどう捉えたかをお話しします。 アカデミーが掲げるFbS(Forest-based Solutions:森林による課題解決)の理念は、宇宙探索という極限環境においてこそ、面白い展開を見せるのではないかと感じました。

 

■ 木工の視点:宇宙でのQOLと「宇宙家具職人」

現在のTSXの計画では、強度や耐候性の課題から、建築主要構造部材には金属材料が想定されており、木構造そのものは考慮されていません。しかし、内装や家具における木質化には大きな可能性が残されています。

  • QOL(生活の質)の向上: 閉鎖空間における木材の生物親和性(ぬくもりや香り)が、居住者の精神的な支えになります。
  • 加工と廃棄の利便性: 金属は一度廃棄物になると再利用が困難ですが、木材であれば現場での再加工が容易です。標準サイズの木材を持ち込み、現地のニーズに合わせて加工する**「宇宙家具職人」**のような役割が、将来必要になるかもしれません。

 

■ 林業の視点:「宇宙林業」と循環システム

木材は単なる材料ではなく、生命活動によって生み出される循環型のマテリアル。この点において、林業は宇宙開発において独自の強みを発揮します。

  • 循環経済への貢献: 木は成長過程でCO2を吸収し、酸素を放出しながら炭素を固定します。動物(人間)と植物(森林)が共生する生態系システムは、閉鎖された宇宙コロニーにおける生命維持の要です。
  • テラフォーミングの核心: 食料生産としての「宇宙農業」と同様に、酸素供給や土壌形成を担う「宇宙林業」は不可欠です。それは、将来的な惑星改造(テラフォーミング)を実現するための、技術的なコア(核心)に位置付けられるでしょう。

 

■ 教育の視点:宇宙時代の自然教育

会場には、モジュール構造を理解するための「木製マグネット積み木」も展示されていました。これを見て感じたのは、次世代への教育の重要性です。

もし将来、地球以外で生まれる子供たちが現れたとき、彼らにどう「自然」を教えるのか。教育の目標(ねらい)の一つである「複雑な環境の中で発見し、自ら問題を解決する力」は、予期せぬトラブルが起こる宇宙環境で生き抜くために不可欠なスキルです。アカデミーが実践している自然教育の手法は、宇宙というフロンティアでこそ、新たな価値を持つのではないでしょうか。

 

おわりに:アカデミーと宇宙産業の交差点

今回の展示を通じて、宇宙開発が「建築」だけの領域を超え、「木工と林業」、そして「教育」を含む総合的な領域に入ってきたことを強く感じました。

構造やインフラはTSXのような建設のプロフェッショナルが担い、その中の「暮らし」や「人の心」、「循環の仕組み」については、私たちアカデミーのような木と森の専門家が提案できる余地が大いにあります。

近い将来、アカデミーの知見が宇宙産業と交わり、月面の森や木の住まいについて議論する日が来ることを楽しみにしています。