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2025年08月12日(火)

林業事例調査2025(3)ハッピーマウンテンさま視察(2025/7/22)

林業事例調査2日目は午前中に根羽村森林組合の視察を終え、午後は森林活用の多様なあり方を学ぶため、長野県根羽村の「ハッピーマウンテン」さんを訪問しました。

 ここで行われている「山地酪農」とは、牛を山の斜面や森に放牧し、自然の中で自由に歩かせながら営むスタイルです。 林業というと木を伐って売るという「モノの生産」のイメージが強いですが、山地酪農という放牧スタイルを通じて人が森と繋がる場を提供する森林のあり方について学ぶことができました。

牛の写真

牛の品種はジャージー牛、初対面の私たちにもゆっくりと近づいてきて触らせてくれる。とてもかわいい

森を生かす放牧の仕組みと多様な活動

 現地では、代表の幸山さんから、牧草地を歩きながら事業の概要を丁寧に紹介していただきました。もともとは針葉樹の人工林だった土地を伐採して放牧を始めたところ、牛たちが山を歩くことで下草が整い、単一だった森から多様な植物が育つ環境へと変化したそうです。

 牛の放牧でアブやマダニが増えたため、これらを食べてもらう目的でニワトリも放すなど自然の循環を生かした仕組みを取り入れています。また、伐採で露出した表土の流失実態を信州大学と共同で調べたり、苔やきのこ栽培、糞虫を目当てにわざわざ首都圏から訪れる方を受け入れたりと、森の恵みを活かしたコンテンツはなんと50以上にも広がっているとのこと。そして、敷地にはゲルテントが設置され、宿泊しながら星空観察はもちろん、ヨタカやフクロウなどの夜の森の生き物たちの気配を感じる体験もできるそうです。

ほだ木の写真

間伐材はほだ木としてシイタケやナメコなどの栽培に利用されている。

雄牛との“まなざし”と森で学んだこと

 放牧地で特に心に残ったのは、雄牛との出会いでした。その大きな体に少しびくびくしながら近づいたのですが、雄牛の優しいまなざしを見たとき、私はすぐに「この子は触れられる」と感じました。信用し合えるコミュニケーションが、言葉も音もなく、まなざしだけで感じ取れたことが忘れられません。また、放牧地のあちこちには鹿の角がさりげなく置かれていて、見つけると「お宝発見!」と思わず心の中で小さくガッツポーズをしてしまうほどのうれしさでした。大人の私ですらうれしいのですから、子どもたちならもっと喜ぶはずです。幸山さんは、こうした森の中に“小さな発見”を散りばめるそのお姿からは、『牛も人もありのままに』という幸山さんのテーマが感じられました。

雄牛の写真

雄牛に体を完全に預ける幸山さん。お互いに安心しあっている様子はとても仲睦ましく、うらやましかったです(笑)。

森林活用への学び

 ツアーの終盤には、牧場を見渡せる丘の上で風を感じながら、幸山さんの熊本での山地酪農の実験から根羽村での再スタートに至る経緯や、森を木材生産だけに使わず、多様な価値を生み出す取り組みについて話を聞きました。

 この視察を通じて、森林活用は「木を伐って売る」というモノの生産だけでなく、森の空間や暮らし、体験そのものが価値となる“コトの利用”があることを学びました。森林には、木材生産だけでなく、放牧、自然体験、教育、観光、そして心が豊かになる時間をつくる可能性が秘められています。
 将来、私自身も森をフィールドにした活動をつくり、ハッピーマウンテンさんのような森と共に生きる風景を紡いでいきたいと思いました。

丘の上での写真

丘の上に吹く風は心地よく、終始リラックスしてお話をお聞きすることができました。

 以上、林業専攻1年 長航介が報告しました。

(林業専攻教員 津田)