【‘25夏 木工事例調査②】有限会社 早川産業
この夏、中津川市を訪問して行った木工事例調査。次に訪問したのは、神棚を製作している有限会社 早川産業です。その時の様子を森と木のクリエーター科木工専攻の学生がレポートで紹介します。
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神棚を主とした宗教関連の製品を製造販売されている、中津川市付知町の「有限会社 早川産業」さまを訪問し、製品加工場内と商品の見学をさせていただきました。
こちらは元々ハケの柄の部分を製造する会社として始まり、最盛期は国内の七割のシェアを占められていたそうなのですが、時代の流れと共に業界の生産拠点の主流が中国に移っていったことから、50年程前に木曽ヒノキを使った神棚の製造を始められたそうです。また、現代の住宅事情などの影響もあって祖霊社(神道におけるいわゆる仏壇にあたるもの)は家具調で小型のものが求められるようになっており、そういった現代の需要に沿った製品も製作されているとのことでした。
中津川市は伊勢神宮の式年遷宮の際に神様を納める御神木を切り出す「裏木曽御用材伐採式」が行われる日本古来の神々との所縁の強い土地であり、神棚製作に使用する木材も同様の木曽ヒノキの他、東濃ヒノキ、タモがあり、天然木である木曽ヒノキは樹齢250年以上、人工林木である東濃ヒノキは70~80年のものを使われているとのお話がありました。
代表取締役 早川甲介さまより社の沿革についてご説明を頂いた後、事務所から別の敷地にある製造工場へと移動し、作業内容の見学をさせていただきました。
工場内は清潔かつ整理が行き届いていて、「神聖なものを扱う場所」という印象を最初に受けました。20代から50代までのスタッフの方が、具材の鉋掛け作業、神棚の扉の一部をトリマーで削り出す作業、削り出した具材に接着剤を塗って手早く組み立てていくといったことをよどみのない動きで手掛けておられる中を順番に拝見し、その後、神棚の主な素材である木曽ヒノキと東濃ヒノキの違いを見せていただきました。
木曽ヒノキは木目が細かく詰まっていてきめの細かい白さと柔らかな雰囲気があり、東濃ヒノキは白よりもやや赤味が強く、木目も線が太くがっしりとした印象を受けました。また、柾目の板として使う木曽ヒノキについては、買い入れた木材から小さな面積しかその部分が採れないので、小さな板をはぎ合わせて大きな板にして使用するとのことでしたが、お客様の中には「一枚板で作って欲しい」という方もおられるそうで、そういった要望には東濃ヒノキの板目の板を使って応えておられるそうです。
最後に製造した神棚や仏壇・仏具類を販売する店舗の見学をさせていただきました。
これまで神棚をじっくり目にする機会が無かったため、一口に神棚と言っても屋根のかけ方、構造にも多くの種類があることなどを知り、またそれら様式の選び方と地域の関係について文化的な奥深さを感じるお話をうかがうことができました。例えば、この地方では三つ並んだ社殿の屋根の高さが異なる「屋根違い」という型がよく購入され、関東圏では同じ高さの屋根が真っ直ぐ左右に通った「通し屋根」の型が多く購入されるそうです。それぞれの土地に神々との関わりについての伝統がある。当たり前のことなのかもしれませんが、精密に形作られた様々な神棚を拝見しながら、それぞれの型に込められた意味(あるいは歴史)とはなんなのだろうと考えました。
また、中にはかつて家を新築した時に手掛けた大工さんが併せて作った神棚を代々使っていて、それが一般的な型にはない様式のため、それと同じ形で新たに作って欲しいという注文もあるそうです。「特注となると費用も余分にかかってしまうのでお勧めとしては型にあるものなんですが…」と言いながらもそれに応えておられるという話に、目に見えないものを大切にする日本人の暮らしや、目に見えない土地の神々とご先祖さま、そして今生きている人々とがつながっていると思う心、自身の中でやや希薄になっているそういった日本人的感性の行く末についても改めて考えさせていただきました。この度は貴重なお時間を割いて、ご丁寧に教えていただきありがとうございました。
クリエーター科木工専攻1年 若井芳昭