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2025年07月14日(月)

【アニュアルレポート2024】 ナイフで鉛筆削りましょ!&自作の箸でいただきます!

岐阜県立森林文化アカデミー活動報告2024より

教授 萩原・ナバ・裕作

 

目 的

 長野県安曇野市立会染小学校では、児童がナイフを筆箱に入れて毎日登校し、鉛筆を削る伝統が40年以上も続いている。その上今まで一度も事故が起きたことがない。隣県の公立小学校でそれほどの実績があるならば、“刃物のまち関市”の公立小学校でもナイフを使う文化を浸透させることができるのではないだろうか?

そこで「カッターで鉛筆削り体験」と「肥後守で竹箸を削って給食を食べる体験」を関市内2校に対して企画・提案・実践し、学校現場でのナイフ普及の可能性を探った。

 

写真① 毎日使う鉛筆こそナイフで削りたい

 

背 景

「“刃物のまち関市”なのに、どうして子どもたちがナイフを使ってないの?」そんな疑問をきっかけに2017年4月に始まった子ども用ナイフ開発事業「morinocoナイフプロジェクト」。開発したナイフは注目を浴び、生産が間に合わないこともあった。

さらに刃物祭りや森林文化アカデミーの課題研究、グリーンウッドワーク協会や「morinos」の活動として、子どもや指導者向けの「ナイフワーク教室」も徐々に広まりつつある。

しかし、プロジェクト開始から8年経ったにもかかわらず、市内小学校でナイフが使われていない現状もある。当初の目標を達成するための新たな挑戦が始まった。

写真② 懐かしの肥後守ナイフで箸を削る

 

身近なものを「削る」出前授業を企画

 出前プログラムを企画するにあたり、特別なナイフで何かを作るのではなく、①身近なナイフを使って、② 毎日使うものを削り、③ すぐ使ってみることを大切にした。そしてナイフを動かさず、削るものを動かす技法で作れるアイテムに
絞った結果、「カッターで鉛筆を削って書いてみる体験」と「肥後守で箸を削って給食を食べてみる体験」の2つに決めた。それぞれ1コマ(45分)で終わる内容にした。

 チラシを作り、関市の小学校の校長会や教員研修の場で参加を募った結果、下有知小と旭ヶ丘小の3年生(合計3クラス89名)に実施することになった。

 

実践①「カッターで鉛筆を削って書いてみる」

 驚いたことに、3クラスとも「初めてナイフを使う」と答えた児童が95%以上もいた。まずは考案した「指の準備体操」と「指の動きをイメージするワーク」を十分楽しんでもらってからカッターで鉛筆を削ることに。芯先をどこまで細くできるか挑戦する子、芯がむき出しになるまで削る子、もう一本削りたい!と新たな鉛筆をもらいに来る子など、子どもたちは各自のスタイルで夢中に楽しんでいた。

その後、「デッサンをする際の削り方」について教えると、子どもたちはすぐさま芯が長く出るように削り直して、鉛筆を横に寝かせて絵を描いては、ナイフだからこそできるいつもとは違う鉛筆の楽しみ方を体感していた。

写真③ 自作の箸で食べる給食は格別!!

実践②「肥後守で竹箸を削って給食を食べてみる」

 2コマ目は、長野県の会染小学校の児童が毎日使っている肥後守ナイフによる竹箸づくりだ。カッターで鉛筆を削った時と異なる感触に気づく子、竹の香りや湿り気を感じとる子、どこまで細くできるか挑戦する子など、楽しみ方も様々。その後子どもたちは、完成した箸で、満足げな顔をして給食を食べていた。自宅に帰ってからも。その箸を自慢げ使った子や、翌日も自作の箸を持参して給食を食べた子がいたそうだ。


結果 (反応・アンケート・その後の反応)

 体験実施後、参加者全員にアンケートを取り、体験前のナイフのイメージと体験後のナイフのイメージ、思ったことを自分で削った鉛筆で書いてもらった。

 その結果、体験前はナイフに対して「危ない」「怖い」ときいうネガティブなイメージを持っていた子どもたちが両校ともに70〜80%だったのに対して、体験後は、全員(100%)が「欲しい」「またやりたい」「楽しい」「便利」といったポジティブなイメージに変わっていた。自由記述欄では「ちゃんと使えば危なくないことがわかった」「家に帰ってからもやりたい」「ナイフが欲しい」など次へとつながる回答が全体の75%にも及んだ。保護者や担任の先生からも好評だった。(図①参照)

 

 

今後の可能性

 小学校でのナイフの普及を考えた際、子どもたちにはナイフを受け入れる可能性があることが、実践とアンケートから分かった。あとは保護者と学校が受け入れてくれるかだ。今回の実践は、両校とも自由参観日にしたため、多くの保護者が見に来てくれた。そして保護者自身がナイフを使った経験がないことも分かった。子どもたちと一緒なって楽しそうに箸を削る保護者の姿もあった。

 今まで知識や情報がナイフを「危険なもの」として子どもから離していただけで、今回のような体験の機会があれば、保護者の意識も変わるだろう。小学校側も、当初は慎重な反応を示していたが、今回のようにまずは実施可能なクラスから始めていくことで徐々に教員間の意識も変わるだろう。関市の小学3年生では、刃物産業のことを習う単元がある。ナイフ工場を見学するだけではなく、実際にナイフを使うことでより深く理解することができるはずだ。

 長野県会染小学校のようになる日もそう遠くはないかもしれない。

 

教員からのメッセージ 
 
 現在このプロジェクトに賛同し出前授業を受け入れたい!という小学校を募集中です。また、本活動を継続していくための資金や、応援してくれる企業も合わせて募集中です。お心当たりがありましたら、森林文化アカデミーの萩原までお気軽にお声がけください。

 

活動

2024年〜

 

連携団体

morinocoナイフプロジェクト

関市教育委員会

 

活動成果発表

「morinocoナイフ」ホームページ:https://morinoco-seki.jp/

 


関連授業&課題研究

森のようちえん&プレーパーク実習 1&2(Cr科)