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2017年09月05日(火)

ウィンザーチェア展見学 〜木工事例調査より

ウィンザーチェア展ポスター

木工事例調査2日目の午前中は、長野県信濃美術館に見学に行きました。

お目当ては、56脚のウィンザーチェアと、同時代に作られた様々な椅子たち、合わせて95脚を鑑賞することです。ウィンザーチェアとは、座面の板材に脚と背棒を差し込んで、全て木で作られた椅子のことで、主にイギリスのウィンザー地方で作られたことからそう呼ばれたと言われています。国内各地で個人や団体が所有していたウィンザーチェアが一同に揃う貴重な展示企画であり、私たちもこの機会を逃してはもったいないということで、見学に行きました。

朝一番でお出迎えしてくださったのは、美術館学芸員の瀬尾典昭さんです。まずは入り口に展示されている、国内工房で製作されたウィンザーチェア2脚を前に、ウィンザーチェアの定義や歴史、種類の説明などをしていただきました。

17世紀後半からイギリス各地で同時多発的に作られ始めたウィンザーチェアは、その後アメリカなどにも広まりました。日本には、昭和の初めに濱田庄司、柳宗悦らが輸入し展示会を開いたことがきっかけとなり、多くの作品が輸入または製造されました。その形状には、背の笠木と座板が数本の背棒でつながっているコムバック(comb back 櫛型)タイプと、背の棒が湾曲しているボウバック(bow back 弓型)タイプの2種類に大別されるそうです。その他にも、背が低く厚い背板を付けた頑丈なロウバックチェア(low back chair)や、渦巻き状の装飾を施したスクロールバックチェア(scrool back chair)などのバリエーションがあります。

学芸員・瀬尾典昭さんのお話を聞く

ボウバックチェアとコムバックチェア

学芸員の瀬尾典昭さんと、ボウバックチェア(左)、コムバックチェア(右)

続いていよいよ展示室へ。ここからは写真撮影禁止のため、写真はありません。入った瞬間にずらっと展示されたウィンザーチェアが目に入り、その数に圧倒されました。すると久津輪先生から学生たちへお題が、、、、「一人3脚以上のスケッチを!」。いきなりの課題発表におののきながらも、瀬尾さんのご説明を引き続き伺います。庶民の椅子であったウィンザーチェアは、当初、野外での使用を目的としていたため、初期のものは3本足のものが作られていたそうです。またイギリスでは座板に、ニレ材(エルム)が主に使われました。ニレは強い材なので脚の角度が比較的垂直なのに比べ、アメリカではパイン材(マツ)などの柔らかい木が使われたため、材の強度を考慮して、座と脚の接合部は座板の縁からなるべく内側に来るように組まれており、椅子の安定を保つために、足の角度を外側に広げるような形状になっているそうです。それぞれの地元で手に入りやすい材を使ってつくられており、地域によって、デザインやスタイルに違いがあったことが分かります。

ウィンザーチェアスケッチ1

コムバック・アームチェア(イギリス18世紀、若林知伸画)

ウィンザーチェアスケッチ2

ボウバックチェア・バンブーターンド(アメリカ19世紀、田中正夫画)

2階の展示室には同時代の椅子の展示や、また当時の椅子製造の様子を記録したビデオなどが放映されており、そちらも非常に興味深い展示となっていました。見学時間として2時間を予定していたところ、時間が足りずに30分延長しました。それでも短い時間であったため、すべての展示を見切ることができない部分もありましたが、古典となるような椅子を間近で見学することができ、非常に勉強になりました。特に2年生は現在「椅子の製作」という授業で、まさにウィンザーチェアを、自分たちの身体のサイズを採寸し、独自にデザイン・設計して制作している真っ最中であり、制作意欲を掻き立てられることとなりました。近いうちに、完成した姿を報告することがあるかもしれません。 最後に、展示内容についてご説明くださった瀬尾様をはじめ、長野県信濃美術館の皆様には大変お世話になりました。ありがとうございました。

(クリエーター科木工専攻 若林知伸・田中正夫)