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2023年07月10日(月)

木工事例調査R5夏① やまとわ

 木工専攻では学生達の関心分野に合わせて木工やモノ作りの事例見学を毎年行っています。今回は一泊二日の行程で木曽地域に足を運び、その時のレポートを学生がまとめました。最初にご紹介するのは長野県伊那市の「やまとわ」さんの訪問記事です。


 やまとわは“森をつくる暮らしをつくる”を理念として、里山など地域の森林資源を活用する事業を行っています。その内容は、木製家具や経木といった暮らしを支える製品の生産・販売や農林業、また、森の価値を伝える活動も行っています。今回お会いした代表の中村博さんは、ご自身を『森林に軸足を置いた木工家』と表現し、家具職人や森林塾などでの経験をバックボーンに2016年10月にやまとわを設立されました。やまとわはもうすぐ7年目で現在従業員22名の会社に成長させています。

代表の中村博さん

代表の中村博さん

やまとわでの工房見学

工房見学の様子

 今回は長野県伊那市にある36officeを訪問、見学させて頂きました。やまとわで使用する木材は100%地域の材にこだわっており、イス等の木製品はもとより、社屋についてもそのこだわりが貫かれていました。やまとわの運営の仕方もとてもユニークなもので、経営が描いた経営計画・長期ビジョンに沿った事業方針をもちつつも、従業員の自律性を重要視して好きな事にチャレンジできる環境と、組織として透明性をもって進めていらっしゃいました。また、社会への『伝える力』についても非常に意識されており、デザイナーやライターの方とソフトや技術の掛け合わせを意識した発信力の向上に努めていらっしゃるとの事でした。

色々な地域材を活かしたイス

色々な地域材を活かしたイス

 主要事業のひとつである経木(きょうぎ)の製造工程も見学させて頂きました。地域の主要材であるアカマツは香りが強すぎず、油分も均一なことから経木に適しており、経木はこのアカマツの無節の部分を使って作られています。厚さわずか0.18~0.20mmでスライスされる経木は非常に美しく、スライスしたての経木は、この後の工程で脱水が必要なほどみずみずしさ満点で触るとまさに森の恵みを感じる事ができました。この経木はお弁当、和菓子などの食品の包装に主としたニーズはあるものの、現在国内では30社程でしか生産しておらず、生産会社は今も減少中です。食品の包装として元々は経木を使っていたものの、経木の生産が追い付かない為に、止む無く紙に変更されるケースも発生しているとの事で残念に感じました。また、お話を聞き、紙やプラスチックなどの包装材が製造や廃棄で発生する環境負荷に対し、経木は素材そのままを生かす非常にシンプルな製品・製造工程で環境負荷が少ない優れた製品であると実感しました。生産数やコスト面を考える必要はありますが、森林資源を生かした、シンプル且つ素材感満点の魅力のある製品だと思いました。海外への展開も考えているとの事で、日本の“包む”文化と共に発信され、新たなニーズが開かれていくのが楽しみです。

経木の製造風景

経木の製造風景

経木の製造風景

経木の製造風景(乾燥)

経木の製造風景

経木の製造風景(検品)

 今回は時間の都合で見学できませんでしたが、経木の乾燥工程で使われる温風や社屋の暖房設備を担っているボイラーには、工房から出た端材を燃料として使用しており、その炭は畑の肥料として活用されているそうです。また、経木の材料としては向かない木の根本部分の材(元玉)は”パイオニアプランツ”というブランドで家具材として使用したり、経木の製造過程で出てしまう削り残しの部分は内装材として活用するなど、資源を無駄にしない姿勢とエネルギーを循環させていくような仕組みづくりが随所から感じられたことも印象的でした。

経木の端材を使った内装

経木の端材を使った内装

 森と暮らし、森と人を繋ぎ、社会にその大切さを伝えていく、この活動が持続できるよう、ビジネスとして成立させるのが重要というのも印象的で、我々もアカデミーでの森や木に関する学びやスキルを社会で価値のあるものとして提供できるようになることが重要と再認識できました。
 今後に活きる学びが多く、大変印象深い見学となりました。このような機会を頂き、誠にありがとうございました。

文責 クリエーター科 木工専攻 2年 根上 拓、迫間 涼雅