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2024年04月04日(木)

木工事例調査R6冬④ 山中

木工や素材生産などの事例見学をする木工事例調査。今回は1泊2日で富山県と石川県に足を運びました。その時の様子を、学生のレポートでご紹介いたします。

 

木工事例調査の2日目の午後は山中温泉に移動して2ヶ所訪問しました。        

最初に訪れたのは石川県立山中漆器産業センター。本センターは轆轤技術の修得と後継者育成、将来の漆器産業を担う人材の養成、自主研究等を行うための産業振興の中核施設として開設されました。

職員の谷口さんに施設の概要についてお話していただきました。基礎コースは、2年で月曜日から金曜日まで9時から17時まで。専門コースは、2年で火曜と水曜の週2日の授業時間となっており、最長で4年間学ぶことができます。授業内容の中心となるのは、挽き物の技術ですが、拭き漆、下地、上塗り、蒔絵などの漆芸技術のほか、図面やデザイン、茶道や生花、書道の授業があります。漆の授業では実際に山に入って漆掻きの作業をし、集めた漆を精製してチューブに詰めて個人で使うこともできるそうです。講師の方々は約30人。職人さんや作家さん、伝統工芸士さんが毎日教えに来ています。その中には人間国宝の方も来られるそうです。

次に施設の案内をしていただきました。ギャラリーには紐を手で引いてろくろを動かす「手引きろくろ」や「足踏みろくろ」の展示があり、実際に体験もさせていただきました。また、加飾挽きの鉋と実際に挽かれた皿が全部で22種類、絵の解説付きで展示されていました。

加飾挽きとは、ろくろを用いて挽物素地の表面に刻みつける円状や渦状の装飾的な模様のことで、山中漆器の得意とする伝統技術です。専用の鉋を手作りで制作しています。当センターでも最初にすることは、鉋の手作りと挽きくずしといって木を削る練習から始まるそうです。

次に「木彫」の授業を参観させていただきました。生徒の皆さんは自分で考えたデザインで蓋物の課題に取り組んでいました。

基礎コース2年生の木彫の授業では1年間に葛葉、輪花盆、蓋物、片口、我谷盆の5つの課題が出されます。週3日ろくろ、1日木彫、1日漆の授業のほか図面などの授業がある中での製作となります。我谷盆は石川県我谷村(現・加賀市)で生まれました。大工さんが冬場仕事のない時に栗の木を材に大工道具で彫り出した民芸品です。ここでは時代にあった我谷盆をつくる課題で、彫り方も形も様々、塗装もウレタンを使用していました。どの作品も自由な発想で素敵なデザインが施されていました。

次に和ろくろの実技の授業を参観させていただきました。1、2年生がそれぞれ各自の課題で一人に一台ずつろくろを割り当てられ練習していました。1年生はお椀を成形していました。木地をろくろに取り付ける前にハメという治具に固定してから取り付けます。お椀の外側を挽く時は、材料をハメ木から飛び出た釘に打ち込んで取り付けますが、お椀の内側を挽く時はまずお椀材がすっぽり入るハメを成形してからろくろに取り付けます。吸い付くようにピッタリと嵌るその精度に驚きました。また、熱心に講師の方に質問している様子や実際に手本を見せて教えている様子など真剣に作品に向き合う姿が印象的でした。

 

2ヶ所目は山中漆器木地生産協同組合に訪問しました。

「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と称されるように山中漆器は美しい木地が特徴です。山中漆器は木地師・下地師・塗師・蒔絵師などといった職人による分業によってつくられています。木地師も荒挽きした木地を購入して作ります。今回訪問した山中漆器木地生産協同組合は原木を買い付け、荒挽きまで製材したものを木地師の方々に販売しています。52年ほど前に良質な材料を適正な価格で販売する目的で立ち上げられました。

理事長の中出博道さんに製材所の中を案内していただきました。中出さんは、普段は木地師の仕事をされており、製材は常駐している4名の社員さんとアルバイトの方でしているそうです。

福井や岐阜から仕入れた丸太を、注文を受けてから製材します。山中漆器は、その強度を保つために、「竪木取(たてきどり)」をしています。木を横にしてスライスし、板の形に木取る「横木取り」が主流ですが「竪木取」では木を輪切りにして、器の垂直方向が木の成長方向と平行になるよう木取りします。木が育つ方向に逆らわずに加工できるため、高さのある椀などは薄くしても強度があり、歪みや収縮に強い木地になります。製材機も他では見られない竪木取用のものを使用していました。

ここで取り扱っている樹種の割合はケヤキ60%、トチ20%。ミズメ(ハンサ)20%です。ヤマザクラは割れたり変形したりするので扱わないそうです。山中にはここのほか2件の民間の製材所があり、そこではヤマザクラを取り扱っているところもあるそうです。次にスライスされたコースター状の木材にお椀の大きさの円をどれだけ取れるか下書きしていきます。芯や割れ、節などを避けるのでロスが出てきます。他の地域で竪木取をしない理由はこの点にあるそうですが、山中では良いものを作るためにこの方法で作られております。

バンドソーで切り出された木地は、鉄鋼用の旋盤で形を整えていきます。そして人工乾燥機にかけ乾燥します。

こちらで生産された木地は組合員の方以外にも販売をしています。個人作家さんのほか先程訪れた石川県立山中漆器産業センターの生徒さんも買いに来るそうです。「木地の山中」ですが年々木地師さんの数も減ってきています。これからの課題として、生産量はあるので山中だけはなく日本中に提供できる体制作りが必要だと話されていました。

今回の訪問で、ウッドショックによる木材の高騰、生活様式の変化による需要の減少そして後継者不足など伝統工芸を取り巻く情勢が厳しいなか、産地ではこの変化に対応すべく様々な試みがされていることがわかりました。

 

今回、私達へのご対応いただいた、石川県立山中漆器産業センターの谷口さん、山中漆器協同組合の中出博道さんご多忙な中、貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました。ここでの学びを今後の活動に活かしていきたいと思います。

 

文責 森と木のクリエーター科木工専攻 1年 矢持達也