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2024年04月02日(火)

木工事例調査R6冬② 瑞泉寺、匠雲堂

木工や素材生産などの事例見学をする木工事例調査。今回は1泊2日で富山県と石川県に足を運びました。その時の様子を、学生のレポートでご紹介いたします。

 

木工やモノ作りの事例見学をする木工事例調査で、2月29日に富山県南砺市にある井波別院瑞泉寺(以下、瑞泉寺)と、彫刻刀の専門店である匠雲堂を視察しました。             

 

日本有数の木彫刻の町である南砺市井波では、瑞泉寺を中心とした600年余りの歴史と受け継がれてきた木彫刻の伝統が高く評価され、2018年に日本遺産として認定されました。はじめに、井波木彫工芸館に工房を構える、彫刻師の前川金治(本名:前川大地)さんに瑞泉寺の案内をしていただきました。

彫刻師の前川金治(本名:前川大地)さん

瑞泉寺は明徳元年(1390年)に創設された真宗大谷派の寺院です。現在の本堂は明治18年(1885年)に再建されたもので、木造建築の寺院としては代表格となっています。本堂へ続く入り口となる大門(山門)は、天明5年(1785年)に京都の大工によって建て始められましたが、途中、東本願寺の復興で帰京したため、その後は井波の大工が引き継ぎ完成したとされています。大門には龍の彫刻(雲水一匹龍)が施された欄間があります。これは京都の彫刻師が製作したもので、井波彫刻の原点となっています。

本堂へと抜ける大門

雲水一匹龍の欄間彫刻

本堂に向かって大門の右側に位置する式台門には、井波彫刻第一号作品となる菊と親子の獅子(獅子の子落し)も彫刻されています。

式台門

敷地全体は高い石垣で囲われており、火災と暴風から建物を守る役割があります。この石垣は町内ごとで、決められた場所に石を積んでいたということもあり、石垣のクオリティに差が出てしまったのだとか。明治12年(1879年)には本堂の火災が起こります。大門にその火の手が移るのを防いだのが、冒頭でご紹介した大門に彫刻されている龍(雲水一匹龍)となります。あくまでも言い伝えではありますが、大門の傍にある松に絡みつき、井戸から水を噴き上げて消火したとされています。

クオリティ差のある石垣

雲水一匹龍が噴き上げたとされる井戸

450畳もある本堂は、日本海側で最大のお堂で大部分が欅造りとなっています。(縁の栃材など部分的に他の材も使われている)最大と言われるだけあって随所に大木が使用されていました。驚きなのは、建造に使われていた大木の一部は、雪持林(急峻な豪雪地帯において、雪崩から集落を守る林)から伐ってきたものでした。当時は、集落を犠牲にしてまで、心の拠り所である瑞泉寺を守ろうとする強い信仰であったことが伺えました。

本堂(冬季は雪囲いをしている)

本堂の左側に位置する太子堂は、大正7年(1918年)に井波の名工の粋を集結し再建されました。特に印象的だったのは「手挟」という装飾材です。これは屋根の勾配に平行な垂木と、地面に水平な斗栱の角度の違いに生じた、三角形の空間を埋めるためにあるものです。すべてデザインは異なり、それぞれを別の彫刻師が彫っています。建造物の一部である大きな手挟を仕上げるのに、いったいどれほどの時間と労力が用いられているのだろうと想像するだけで、井波彫刻の技術の素晴らしさが感じられます。瑞泉寺全体に言えることですが、建造されてから年月がかなり経過しており、特に太子堂は老朽化が著しく、早急な修復が課題となっているそうです。

太子堂の手挟

手挟の拡大写真

次に、彫刻刀の専門店である匠雲堂を訪問しました。1975年の創業以来、井波の町で刃物を作り続けている、社長の岡田榮吉さんにお話を伺いました。アカデミーの学生も匠雲堂の彫刻刀を使用しています。岡田さんにはアカデミーでの出張販売や彫刻刀の研ぎについての実演など、日頃から大変お世話になっています。

匠雲堂の外観

社長の岡田榮吉さん

はじめにお店の裏側にある鍛冶場を見せていただきました。岡田さんは将来的に鍛造事業も手がけ、道具を自社で一貫生産することを目標にされています。訪問時点では、まだ鍛冶ができる設備は整っていませんでしたが、今後少しずつ準備していくとのことでした。それに伴い、今までおこなっていた彫刻用の木材の切り出し事業は終了し、鍛治に専念していくそうです。

鍛冶場予定地

もともと匠雲堂は、井波の彫刻師限定で道具販売をしていました。しかし、販売する道具の質は最高のものがゆえ、それを知った全国の美術大学や専門学校、一流の彫刻師からの注文が殺到しました。加えて、木彫りが流行する日本情勢があったのもきっかけとなり、今では1000種類以上もの彫刻用具が揃えられています。店内には完成品が並べられていますが、オーダーメイドでの注文も受け付けています。注文を受けてから刃物を叩き上げ、柄をつけてお届けするため、納品に時間はかかりますが最高品質で自分仕様の刃物が手に入ります。どこまでも使い手に寄り添った販売をおこなっていました。普段見ることのない道具に学生は興味津々で、道具の特徴などを岡田さんに相談しては購入していく者もいました。

岡田さんに道具の相談をする学生

道具選びに真剣な学生

最後に、岡田さんから情報発信についてお話がありました。品質管理において刃物の「研ぎ」は欠かせないものであり、定期的なメンテナンスこそが最高の能力を発揮させられる方法だとおっしゃっていました。当然、お店に持ち込めば、研ぎを含めたメンテナンスはおこなってくれますが、少しでも彫刻刀を人々の身近な存在にしてほしいと、YouTubeで研ぎの実演動画(URL:https://x.gd/7SJSA)を配信しています。学生もこの動画を見て勉強させていただきました。

 

今回の調査は、木工を学ぶアカデミーの学生にとって、井波彫刻の歴史と文化に触れる良い時間となりました。今回の学びを今後の活動に活かしていきたいと思います。ご対応いただいた前川さんと岡田さんをはじめ、関わってくださった皆様に感謝いたします。ご多忙の中、貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。

 

文責:木工専攻2年 兒島京太朗・寺島基 1年 若田拓也