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2021年12月15日(水)

木工事例調査 関西④(SHARE WOODS山崎正夫さん後編)

クリエーター科木工専攻の恒例授業「木工事例調査」に行ってきました。昨年はコロナの影響で県外への訪問は実施できなかったのですが、今回は感染対策を万全にして兵庫、大阪、京都の博物館、製材所、木工工房などを1泊2日で回りました。

学生によるレポート第四弾はSHARE WOODS 代表 木材コーディネーターの山崎正夫さん(後篇)です。

 

■モノ作り拠点 「MAR_U」

MAR_U(マル)はSHARE WOODSが運営する工房で、兵庫津と呼ばれる神戸市兵庫区南部の港界隈にあります。2017年に60年続いた船大工の工房「マルナカ工作所」を引き継ぎ、「マルナカ工作所」として設立されました。その後、2019年にあらたな木材倉庫が確保されたこともあり、ものづくりの工房としての機能をパージョンアップし、名称を現在の「MAR_U」に変更されたとのこと。

現在、MAR_UはSHARE WOODSの工房であり、3名の若手クリエーターがデザイン&木工に取り組むシェア工房となっています。SHARE WOODSの業務として若手クリエーターが製作をおこなう一方で、クリエーターへの依頼として製作もおこなわれています。六甲山材を活用したプロジェクトがあれば協力して取組むなど、最近では図書館や商業施設に六甲山材を使った内装や家具のリクエストが入るようになってきています。

このような活動の中で、作り手の考え方に変化が生じているとのお話しがありました。これまでは木工作家が「良い材料からきれいな製品を作る」という考え方が中心でしたが、徐々に「地域材を使って個性のある製品を作る」という考え方も生まれつつあるとのことです。六甲山で伐採される樹は幅の狭い板しか取れず、木材利用の観点からは十分な太さとは言えません。また家具などの木工に用いられてこなかった樹種もあります。

そういった樹から生まれた木材を利用する機会は木工作家自身もこれまでなかった。こういった地域材で木工作家に木工品製作を依頼する中で、木工作家の考え方に変化が生じているようです。MAR_Uの入口は大きく開けはなたれているので、工房が誰にでも開かれ、さらに歴史を感じさせる趣がある内部は、とてもよい雰囲気を纏っているように感じました。

工房内の様子

 

■丹波篠山での活動

山崎さんは、神戸市内とは別に、神戸市から北に1時間ほどの丹波篠山で、新たな活動を始めています。

<新たな活動拠点、住山>

丹波篠山住山地区にある活動拠点は、昨年、山の中の茅葺き小屋がある里山を引き継ぎ、今春から運営を開始されたとのこと。SHARE WOODSとしてはこの拠点をショールームやワークショップの拠点として考えており、さらに企業研修などにて里山の農業体験などの場として貸出も検討しているとのことでした。

この場所を初めて訪れて思ったことは、茅葺き小屋の存在感が大きく、単なる里山とは異なり不思議な非日常感があります。もし一年をとおして四季折々の暮らしを体験できるとした場合、自分の暮らしそのものに何らか大きな影響を受けるのでは無いかと思いました。

住山の活動拠点

 

<農地の延長としての森林利用>

上記の活動拠点とは別に丹波篠山での里山広葉樹活用プロジェクトの実証実験の場である森林にご案内いただきました。この森林は丹波篠山 吉良農園の代表の吉良佳晃さんの所有で、山崎さんと吉良さんから、里山広葉樹活用プロジェクトのこと、農業と森をどのようにつないでいくのかなど、ご説明いただきました。

里山広葉樹活用プロジェクトは産学連携で、神戸大学、信州大学、カリモク家具、Andecoを軸として、国内における森林(広葉樹)の課題とビジネスでの利用促進に向けた価値向上を目指されているとのこと、SHARE WOODSもプロジェクトメンバーとして参加されています。

吉良さん所有の広葉樹林はこのプロジェクトの実証実験の場の一つであり、10月に10m×10mのプロットで毎木調査を行い、20本程度の広葉樹(コナラ、ソヨゴ、リョウブ、サカキ)に電子タグを付けたとのことです。この電子タグは、スマートフォンで情報を読むことができ、さらに人工乾燥の熱にも対応しています。電子タグが付いた樹木は、必ずしも用材として適しているものばかりではありませんが、今後はこの電子タグの情報を活用し木材のトレーサビリティを行い、トレーサビリティが材としての価値をあげることにどのように役立つかを検証していく予定とのことです。

一方、農園を経営する吉良佳晃さんは農家目線での森林活用を探られています。吉良さんは集落内の耕作放棄地や休耕田の農地再生に取り組んでこられ、続いて森の再生にも取り組まれています。所有される山は人手が入らない状態が長く続いていたとのこと。吉良さんがイメージする山は、農地から山の中腹までは農地の延長の「収穫・栽培の山」です。中腹前後は広葉樹の森として管理を行い、中腹以上は天然林として天然更新に任せていく、といった森の形を考えられています。

吉良さんは今年3月に「一般社団法人AZE」を設立し、①未来の地域づくり、②持続可能な活動を基盤とした循環型社会の形成をビジョンとして掲げ、新しいエコシステムとして農業・森つくり・コミュニティの循環を構築したいとのことでした。

これまでは丹波篠山と言えば「丹波黒豆」のイメージしか無かったのですが、今回の調査にて、自然が豊かな地域であり、且つ魅力的な人が集まる地域であることを知りました。

丹波篠山 吉良農園 代表 吉良佳晃さん

 

◆終わりに

今回の訪問で木材活用、とりわけ地域での木材活用には山崎さんのように木材コーディネーターとして人と人をつなぐことが重要であること、さらに木材価値をどのように創造していくのかなど、多くの学びを得ることができました。2日間に渡りご案内とご説明をいただいたSHARE WOODSの山崎正夫さん、また、六甲山の森林整備についてご説明いただいた神戸市役所 建設局 防災課 新銀仁善さん、道木柳太さん、里山広葉樹活用プロジェクトの実証実験をご説明いただいた丹波篠山 吉良農園の吉良佳晃さん、貴重な機会を与えていただきありがとうございました。

 

文責

森と木のクリエーター科 木工専攻

渡邉聡夫(2年)、高橋敏(1年)