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2021年04月02日(金)

県内で起業した木工の卒業生を訪ねて ①郡上木履

私たちの先輩である木工専攻12期生の諸橋有斗さんが代表の、「郡上木履(ぐじょうもく り)」の見学をさせていただきました。郡上木履では主に盆踊りの際に履く、踊り下駄の製 造販売をしていらっしゃいます。店舗は城下町の一角にあり、店内にズラリと並んだカラフ ルな柄の鼻緒に目を奪われてしまいました。郡上木履の店舗

店舗のある郡上八幡では「郡上踊り」という、400 年前から続く伝統文化があります。8月 から1ヶ月の間、毎日盆踊りが開催され、お盆期間には夜通し踊り続けます。

「郡上踊りは見る踊りではなく参加する踊りです。音頭に合わせて下駄を地面に叩き、カラ ンっと音を立てて踊ります。この音が重要で、桧で作る下駄は高くていい音がするんです」

郡上踊りには洋服で来る人も多いため、下駄の鼻緒は洋服にも合わせやすいポップなもの も多く揃え、そこから好きな下駄と鼻緒を選んでもらい、取り付けます。毎晩踊りに通う踊り 好きは、1シーズンで下駄を履き潰してしまうそうなので、毎年お店に訪れる方もいらっし ゃるそうです。鼻緒のバリエーションが豊かなのは嬉しいですね。

諸橋有斗さん
「学生一年生の夏に郡上踊りに来た時に、踊り下駄が地元で作られていないことを知ったことがきっかけで下駄を作ってみたんです。その後、課題研究として製作に取り組み二年生の お盆期間に100足作って販売しました。郡上の伝統文化に触れることに不安があったの ですが、下駄の研究をするときに郡上の下駄屋のおかみさんが親身になって協力してくれ たことが大きかったです」

アカデミーを卒業後に株式会社郡上割り箸の下駄事業部として活動を始め、三年後に独立し 2016 年に郡上木履として独立したそうです。

製品を説明する諸橋有斗さん

「元々は郡上の木を使うことで資源利用に貢献したいと思っていました。しかし、起業に向けて考えていくうちに、下駄の材料として使うだけでは木材消費は少ないことに気付いたん です。木材の消費ではなく、郡上の木で下駄を作ることで下駄や踊りに興味をもってくれる人や、郡上に来てくれる人を増やすことで貢献したいと思っています」

下駄の材料である桧は郡上の製材所から、鼻緒はシルクスクリーンプリント、藍染、刺繍など郡上産のものを仕入れているそうです。現在は踊り下駄を軸に一本足の下駄や、普段履き用などの商品展開もしていらっしゃいました。

諸橋さんの工房

工房は店舗から 5 分ほど離れた⻑良川沿いにあります。縁あって木工業をしていた方に去年工 房を譲っていただいたそうです。とても綺麗に整備された工房を見て、諸橋さんが作る美し い下駄に納得がいきました。

「踊りが終わってから来年の春にかけて次のシーズンの下駄をこの場所でつくります。一 枚の節の無い桧を選び削りだしてつくることで、丈夫で折れにくい下駄をつくることができ ます」

下駄の材料

「これからは下駄職人以外に作家としても活動していきたいと思っています。学生時から 木工旋盤が好きだった事もあり、最近機械を導入しました。別の作品づくりをすることで、 新しいアイディアが生まれて下駄づくりにいい影響がでると思っています」

郡上木履の店内

「アカデミーでは木工の技術や知識以外に、いろいろな年齢層、業種を経験してきた人たち と交流できたことがよかったですね。」

 

今年も20代〜60代までいろんな経歴の学生と時間を共にしています。例えば前職で社⻑ だったような人も、同級生として木工を学ぶ仲間になることができます。木工以外のことは 学生同士で学び合うことがとても多い場所で、今回のように卒業していった先輩達とも出会 うことができました。

下駄

今回見学させていただいて、郡上木履さんの仕事が文化と繋がったものであると感じまし た。木工家として何を作っていくかだけでなく、自分の住む町で抱えている困りごとや課題 から考えていくことも重要だと知ることができました。

また、驚いたのは諸橋さんの行動力です。下駄に出会ってからすぐに試作を始め、翌年の夏 には地元企業さんに協力を依頼して 100 足を製作して販売。その間にも起業するために知 識が足りないと思い、起業系のセミナーにも参加されていたそうです。諸橋さんのような芯 のある仕事をしている先輩に出逢えたことで、これからやらなければならないことは何か気 づくことができました。 郡上を代表する文化である郡上踊りの下駄を、地元の素材を使って地元の職人が作ってい ることをとても嬉しく思います。今年の夏に下駄を履いて郡上踊りに行くのが楽しみです。

文責:クリエーター科木工専攻 水上淳平