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2017年03月01日(水)

教員リレーエッセイ 10:人とものづくりの関係を再定義し、新たな価値の創造へ

和田 賢治 (木工)

 

あなたにとって「ものをつくる」という行為はどんな意味を持ちますか?

三菱鉛筆のUniなどをデザインしたことで有名な工業デザイナーでありながら、大量生産大量消費の世に疑問を投げかけ、後年は日本各地で地域資源を活用したクラフト産業育成に尽力した故秋岡芳夫氏は、今から35年前、柳宗理氏との対談の中で「日本人は類猿人だ」と表現し、人はものを使いこなすばかりで暮らしの中でものをつくらなくなったと指摘しています。その上で人間らしさを取り戻すために「工房のある暮らし」を提案しています(民藝 1982年2月号)。

動物と違い、人はものをつくります

ものをつくることこそが人が人であるということなのに、ものを買うばかりで、自身の暮らしの中でものをつくっている人はどれくらいいるのでしょうか?ものをつくることで人間らしさを取り戻そう、と秋岡氏は訴え続けてきたのです。

今回は、「人」と「地域」をものづくりという切り口で、これからの暮らしの在り方を考えてみます。そして、そこから木工の仕事の広がりを見ていこうと思います。

 

心豊かな暮らしのための木工の役割を求め続けて

物質的な豊かさから心の豊かさへ。21世紀に入ってから耳にタコができるほど聞いてきたこのフレーズですが、世の中を見渡すと先日の久津輪准教授が指摘したIKEAなどのようにグローバリゼーションと共に極端な大量生産がさらに加速しているように思えます。そしてそれらを購入する大多数の人たちがいるのも現実です。

東日本大震災

しかし、国内では、東日本大震災をきっかけに確実に消費行動は変わりました。「ものを買う」という行為でも、そのものの背景を見る人が増えたようです。そして、自身の暮らしを支えているものがいったいどういうものなのかというところに目を向ける人たちが少しずつ増えてきています

私は、人々のこの暮らしに対する意識の変化に伴い、木工の役割が徐々に変わっていくのではないか、単に木工技術を用いて家具や道具をつくる以上の役割がこれから求められるのではないかと感じていました。そんな思いから、人とものづくりとの関係を改めて考えるための研究活動をしてきました。

 

デジタルファブリケーションを授業に取り入れたワケ

デジタルファブリケーション IAMAS 木工 森林文化アカデミー

今年度の木工科目のカリキュラムで実験的に「デジタルファブリケーションの導入」という科目を入れました。デジタルファブリケーションとは、3Dプリンター、レーザーカッター、CNCなどパソコンのソフトなどで設計(またはデザイン)したデジタルデータをもとに加工をする工作機械、またはそのものづくりを指します。木工の科目なのにデジタル工作機械なの?と思う人もいると思います。

私はこのデジタルファブリケーションが機械の低価格化と共に一般的に知られるようになってきた2012年ごろから調査をしていました。というのも、これまで難しかったものをつくるということについて、これらのデジタル機器が人々のものづくりに対するハードルを下げ、これまで自身でつくらなかった人たちが日常的にものをつくることを始めるかもしれないと感じたからです。

以降、デジタルファブリケーションはある意味ブームとなって熱気を帯びて広がりましたが、現在はブーム的な広がりはいったん収束したように見えます。しかし、着実に人々の暮らしに近づいています。将来的にはプリンターが家にあるように、3Dプリンターが各家庭に1台ある世の中になるのかもしれません。

デジタルファブリケーション

そのような時代になったとき、木工をする人間としてどういったことが求められるでしょうか?積極的にそれらの機器をつかってものづくりをしていく姿勢が必要ですし、デジタルファブリケーションを入り口にしながらも木のものづくりへ一般の人たちを誘う活動も必要でしょう。つまり古典的な木工技術を身に着けることはもちろん重要ですが、新しい技術を知り、使うことも重要です。

その意味で、今年からデジタルファブリケーションに触れる科目を入れました。その授業の様子は→こちらの記事←で紹介していますので、ぜひご覧ください。

 

地域の資源を使って、くらしを作ることの意義

アベマキ学校机プロジェクト

さて、話は変わりますが、私は岐阜県美濃加茂市と協力し合い、美濃加茂市北部に群生するアベマキという堅い広葉樹の有効利用するため、アベマキ学校机プロジェクトを推進しています。反り、割れ、ねじれなどじゃじゃ馬のように暴れ、全く木工用途には適さないとされきたアベマキを、1から見直し、乾燥実験を行いました。適切な乾燥で暴れやすさをコントロールできることが分かり、逆にその特徴である堅さを生かして地元の小学校の机の天板として活用することにしたのです。

さらに、持続可能な取り組みとなるよう小学校5,6年生が伐採、製材、乾燥、製造を見学、体験し、出来上がった天板を翌年入学する新1年生に贈呈する。その机で6年間勉強しながらも5年生6年生になったら今度は自分たちが新たなアベマキ天板を作って新1年生に贈呈、というサイクルで回していくことにしました。

このプロジェクトは今年で3巡目に入っています。市役所の強力な推進力が地域の人たちのやる気に火をつけてこの活動はさらに広がりを見せています。

その広がりの一つとして今年度動き始めたのが「アベマキ MY椀 プロジェクト」です。地元の木をより地域の人の暮らしに取り入れてもらうために、食の道具としてお椀を自分たちの手でつくる活動を始めました。

アベマキ MY椀プロジェクト

自身の手で暮らしの道具をつくることの意味。それは暮らしの自立にあります。買うことでしかものを調達できず、暮らしを成り立たせることができない場合、そのものの供給が途絶えれば暮らしていけないことになります。しかし、自身でつくるという選択肢があるだけでも心強く、さらにその材料が地域のものであればよそに頼る必要がなくなります。

アベマキ MY椀プロジェクト

その一歩としてワークショップ形式で地域のまちづくりに関わる人たち、保育園の先生、保護者の方たちにお椀づくりを体験してもらいました。みなさん、地元にありふれている木材からこのようなお椀が数時間でつくることができることに大変驚かれていました。

このプロジェクトの最終目標は、この地域の中に市民工房をつくることです。地元の木が木材となってそこにあり、自由にそれらを使って暮らしの道具をつくる。それが当たり前になることを目指しています。

 

人とものづくりの関係の再定義

改めて、秋岡芳夫氏の言葉を振り返ってみたいと思います。彼は一貫して、ものをつくることをはじめなさいと言い続けていました。それが人としての豊かさにつながるということです。そのための「工房のある暮らし」の提案なのです。そして、それを「裏作」として実施する、つまり副業としてものづくりをすることを勧めているわけです。

副業といえば、まさに旬な言葉じゃありませんか。現在政府が推進する働き方改革の一環で副業を容認する方針へ変わりました。私は、多くの人にとって普段の勤め仕事だけでなく、日常的に創作活動をとりいれることでより人間らしい暮らしが実現するのではないかと考えています。

秋岡芳夫氏は、人はものをつくる生き物だとおっしゃっています。最近のDIYに関する世の中の熱気は、「ものをつくりたい」というある意味この人間の根本的な欲から生まれてきているのかもしれませんね。

 

あらためて木工の役割を考えてみる

「人」と「ものづくり」を考えたとき、今の時代、秋岡芳夫氏が提唱したように、みんながみんな工房を持つことはできません。もったところでそもそも誰かに教えてもらえないとものは作れません。つまり、場所と設備があり、そして教える人が必要なわけです。ものづくりを楽しむためには、伝統的な木工もあれば、デジタルファブリケーションなどの新しい技術を活用する必要もあるでしょう。

また、アベマキ学校机プロジェクトのような「ものづくり」と「地域」を掛け合わしたプロジェクトを推進する際は、地域の価値をどこに重点的に持っていき、そしてものづくりの比重をどこにおくかを判断しなければいけません。

アベマキ MY椀プロジェクト

「人」「地域」「ものづくり」を考えたとき、家具や生活道具をつくるという従来の木工の仕事をするための技術を習得していることは大事ですが、これからの広がりとして、それらの技術を人に教えることができること、または、ものづくりで地域の価値を生み出すために何が求められているかを見極め、仕組みを構築する力が求められていると考えます。

木工は、人と地域を豊かにする仕事です。

そして、アカデミーはそのための木工を教える学校であり、そのためのカリキュラムを用意しています。徹底した森林・木材の知識と木工技術習得、プロダクト/プロジェクトを通してのアウトプット、そして課題研究による地域課題へのアプローチと解決への実験。

最先端はここにあります。


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