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2018年10月25日(木)

ドイツ・サマーセミナー2018報告8

ドイツ・サマーセミナー6日目の報告です。択伐林施業が行われているシュバルツバルト南部の森林を見学しました。

この森林の多くは、昔、農家の人たちが所有していたのですが、暮らしが貧しく、土地を州に売ったため州有林の割合が増えたとのこと。80%くらいの人が土地を売り、林道等がだんだん整備されて林業を行いやすい環境が整ってくると、土地を売らない人が増えたため、20%くらいの民有林が、細長い形の土地で残っているそうです。

択伐林施業…択伐(収穫すべき木を選んで伐採すること)によってできたギャップ(空間)に、天然更新または植栽によって次世代の個体を更新させていく施業のこと。収穫と更新を同時に意味する。

 

林齢ごとに色分けされた地図。下の方は択伐林で異齢林のため色が塗られていない

 

過去には皆伐一斉造林が行われていたので、林齢が同じ同齢林でしたが、現在は択伐林施業を行うことで異齢林の林にしているとのこと。択伐林のことをドイツ語ではplenterwaldといい、どんな樹種であっても択伐林施行を行うと、林内の木の樹高と胸高直径が異なる林になり、また年輪が密な木が育つそうです。

 

様々な林齢、大きさのトウヒ・モミ・ブナの林。生態系保全のために枯死木を残すことは大きな意味があるとの話もありました

 

70年代頃より、本来の自然の姿に近い森にしようという近自然の森への動きが盛んになり、ドイツトウヒ中心の林から潜在植生であるブナを増やしていく動きが推し進められたそうです。ブナは主にベニヤやアイスの棒に使われているが、需要は常にあるというわけではなく、環境的な面からブナへの転換がすすんでいるとのこと。またドイツトウヒは既にたくさん蓄積量があるので、これ以上増やさなくてもいいのではないかという話がありました。

また、この森林では、胸高直径60cmでの収穫を目指す試験区と胸高直径80cmでの収穫を目指す試験区などが設けられ、古い地区の方は1926年から5~6年ごとに伐採し、胸高直径や成長量、蓄積量等のデータがとられています。

 

胸高直径(DBH)80cmを目指す試験区のDBHサイズごとの本数を年別に比較した表。択伐林は、大きい木を伐って更新させるため、逆J字型になる(サイズの小さい木が多く、大きい木が少ない)

 

どの木を伐り、どの程度の大きさのギャップを作り、林床にどれくらい太陽光が入るようにして、どの樹種を育てるのか。樹冠の大きさをコントロールすることで、実生した稚樹の成長をコントロールします。伐りすぎてギャップを開け過ぎれば、急に強い光があたることで幹が焼けるなどの被害が発生する可能性もあるし、逆に伐り足りないと、林内が暗すぎて成長をさせたい稚樹がよく育たない可能性もあるため、林の様子をみながら適切な量の伐採を行う必要があります。ある程度暗い環境下で稚樹をゆっくり育てることで、年輪が密になり、枝の自然枯死も狙えるので、質の高い木になっていくそうです。

 

モミは雪害や乾燥害に弱いが、ドイツトウヒはキクイムシによる虫害の被害を受けるというように、枯死の原因に違いがあるという話もありました

 

また択伐林は基本的に混み合っているため、機械を入れて伐ることが難しく、人がチェーンソーで伐採を行います。伐採するときに下層木を傷めてしまわないのかという質問がよくあるそうですが、ダメージは当然あるが、小さい稚樹はたくさん生えてきているので少しくらい痛んでも問題はないそうです。

 

太い木を伐って開いたギャップに育つ稚樹

 

日本ではギャップをつくっても、ササや他の成長の早い樹種との競争に負けて、育てたい樹種の木がうまく実生しなかったり、成長できなかったりなど、天然更新が難しいケースが多く、あちらこちらにモミやトウヒが実生している森の姿が少しうらやましくもありました。

ただ、この森でも、同じようなサイズのギャップが空いていても実生の稚樹の量が少ない場所もあり、そういう場所には苗木を植えることも考えているそうです。また鹿の食害の影響があるところでの更新は難しいとの話もありました。

最後に、日本でも択伐林施業を行っている岐阜県の今須について、かつては択伐林施業が行われていたが、途中で管理ができず伐採が行われなくなってしまったため、択伐林の形が崩れてしまっているという話がありました。実生で生えてくるにしても、植えるにしても、その後しっかりと管理を行い、林冠層の木を伐って、適切な光が入るギャップをつくり目的樹種の更新を行っていくことが択伐林施業では大事なのだと学びました。

クリエーター科1年 林業専攻:森泉 周平