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2018年10月20日(土)

ドイツ・サマーセミナー2018報告3

ドイツ・サマーセミナー3日目。この日はロッテンブルク大学演習林にて、「土壌・保護林・間伐・測樹」がテーマの現地講義が行われました。

この地域の森林土壌の現状ですが、日本と比べると土壌に含まれる栄養分の層が「非常に薄い」とのこと。そのため、森林施業を行うにも適地適木の判断は非常に重要であり、あらゆる場所の林内環境の調査(土壌の保水量、土壌の基質、植生状況など…)が綿密に行われていました。それらの様々な情報は分類されてマップ化されており、フォレスターによる施業計画の作成に反映されるとのことでした。

 

土壌に含まれる成分についてレクチャーを受けました

 

こうした土壌が形成された背景には、過去に行われた「人々による利用のされ方」が関係しているようです。 元々は広葉樹が生育する環境でしたが、かつてこの地域の森林は農業利用に使われており、林内での放牧や、肥料づくりのために林内の落ち葉が大量に掻き集められたことから、腐葉層が堆積されなくなったとのことでした。

加えて、酸性雨によって土壌の酸化が進み、人為的・自然的要因のどちらもが影響し、ミネラル分が溶脱された「ポドゾル」というタイプの土壌が時間とともに形成されていきました。結果として、ナラ(oak)やブナ(beech)といった広葉樹は自然に再生されなくなったため、森林管理の方針も見直され、針葉樹種の植え替えに転換したそうです。

 

保護林(禁伐区)の写真です

 

ドイツでは森林の97%が利用のために使われており、いわゆる「原生林」が存在しない代わりに、州の方針により保護林(禁伐区)の設定を行っていました。

 

Ruge先生からこの林の更新についての講義を受けている様子

 

この林で見られた樹種は、主にヨーロッパブナ(Fagus sylvatica)、フユナラ(Quercus petraea)、オウシュウシラカンバ(Betula pendula)の3種程度のみ…。

 

ギャップ(空いた空間)の様子

ブナの稚樹

倒木でギャップの空いた空間の足元を見ても、ブナばかりが優占して生えていました。

この理由には、

  • 他の樹種が生育するためには暗すぎ、耐陰性の高いブナが優占した
  • 乾燥のしすぎ
  • ブナの稚樹バンクが存在していて、他の樹種が生えてこれなかった

等々が考えられるとのことでした。

日本では比較的多種の広葉樹の実生が自然に発生しますが、ドイツの自然林においては広葉樹の多様性は低く、かなり限られた樹種しか目にすることができませんでした。

 

広葉樹の選木実習の様子

将来木には赤,支障木には黄テープを巻きました

育てたい木(良い広葉樹材– high valuable timber)の選定基準には、以下の4項目があります。

  • 通直であること
  • ある程度の太さがあること
  • 無節か、節が少ないこと
  • ねじれがないこと

以上を基準として、育てたい将来木に赤色のテープ、その木の支障となる木に黄色のテープを巻いていきます。広葉樹択伐施業の手順としては、まずは通直な木を育てるために40年間は高密度のまま、10m程度は枯れ上がりを促進させ、その後に選木を行って支障木を伐採します。高品質材を追求しすぎれば、その分木の成長には時間がかかるため、施行においては、高品質を目指すことと成長のスピードのバランスを考えることが大事とのお話を受けました。

 

ドイツトウヒ(Picea abies)の幼齢林

 

元々アルプスにあったトウヒを現在のような平地へ持ち込んだ影響で、キクイムシの被害が多発しているそうです。被害のあった場所はモミへの転換も行っているとのこと。

 

30分毎の胸高直径を計測する機械

月ごとの樹種別の成長量が記録された図の写真です

 

月ごとの樹種別の成長量をグラフ化し、天気や気温によって成長にどのような差があるかを明らかにしています。例えばトウヒと、のダグラスファー(米松, Pseudotsuga menziesii)では、同じ樹齢で同じ乾燥地で生育させた条件でも、成長量にかなりの差があり、ダグラスファーの方が乾燥に強いとのことでした。

乾燥による成長の問題以外にも、

  • トウヒはキクイムシや風倒の影響を受けやすい…
  • ヨーロッパモミ(Abies alba)は、鹿の食害を特に受けやすい…
  • ダグラスファーは樹皮を鹿の角研ぎに使われやすい…

などなど、樹種毎に問題や強みも異なるため、一つの林でも単一樹種のみでの施業は避け、様々な樹種を混合させた森づくりがされている印象を受けました。

エンジニア科2年:小野寺