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2019年08月15日(木)

岐阜県農林系3校連携授業「流域社会とまちづくり」第1回~上流域の防災機能・伝統文化・新たな移住の動き

8月9日(金)~10日(土)の1泊2日で、クリエーター科選択科目「流域社会とまちづくり」の第1回フィールド実習を行いました。実習地は西濃の揖斐川流域121㎞で、第1回は上流域の揖斐川町の山村部を、第2回は大垣市~河口部の三重県桑名市までを2回に分けて巡ります。上流域は言うまでもなく森林資源の供給や治山治水上も重要な役割を果たしていますが、近年の過疎化や生活様式の変化でそれらの機能が低下しています。そうした現状を肌で感じ、都市部の防災や生活とのつながりを再構築しようとする様々な動きを見直そうという狙いです。

今回の実習は、岐阜県農林系3校連携の「農山村への移住・起業に関する短期研修」としても位置づけられ、岐阜県立国際園芸アカデミー、岐阜農業大学校からも参加者がありました。現地の移動や案内等は実習エリアで活動する(一社)ヤマノカゼ舎との連携で行い、河川土木や流域団体の動向に詳しい神田浩史さん(NPO法人泉京・垂井副代表)を非常勤講師に迎えて実施しました。

初日、養老鉄道揖斐駅に一行9名が集合してまずは全体ガイダンス。さっそく旧坂内村の諸家集落へ赴き、元坂内村長の田中正敏さんから往時の山の暮らし、昭和34年の伊勢湾台風で発生した土砂災害によって集落の過疎化が一気に進んだ経緯などをお聞きしました。田中さんは「諸家の里」という工芸村を開いて、若いクラフトマンの家族が移住したり通ってくる環境も作られています。

午後は、揖斐川本流に徳山ダムとセットで建設された横山ダムを訪れました。貯水量日本一の徳山ダムの放水を受け止めて下流部への放水を緩和する横山ダムは治水上の重要な役割を担っています。中空重力式コンクリートダムという珍しい構造で堤内が見学できます。国土交通省の管理官が丁寧に案内してくださいました。

道の駅・藤橋に立ち寄ってダムに沈んだ村の民具が保存されている徳山民俗資料収蔵庫を見学してから、揖斐川町内の神社に作られたゲストハウス「YADOYA IBIGAWA」に到着。長いフランス滞在から帰国して神主を継いだ保井円さんの宿で夕食を自炊して懇親を深めました。翌朝は、ドイツ駐在から郷里に帰ってドイツパン工房を開いた廣瀬眞司さんにパンを届けてもらい、和洋折衷の朝食をいただきました。最近はこのようなUIターンの方々が揖斐川上流域でさまざまな仕事を創り、行政もインバウンド(外国人向け観光)の支援に力を入れ始めています。

2日目は、揖斐川の支流である粕川を遡り、旧春日村でNPO山菜の里いびを主宰されている小寺春樹さんを訪ねました。小寺さんは伊吹山の麓の古屋集落に生まれ育ち、山菜・薬草などの地域資源を活用した特産品づくり、体験教室などを長年続けておられます。幼少時に見た炭焼き・茶栽培が盛んだった頃の森林や農地の景観と、戦後の針葉樹が拡大した後の森の変化も現地でつぶさに案内してくださいました。

春日地区の「薬草の村づくり」の拠点施設であるモリモリ村(地元産品の直売所、薬膳レストラン、薬草風呂、診療所と健診センターの合体施設)でお昼を食べた後、粕川と揖斐川の合流点に集中してある霞堤(かすみてい)を見学しました。これは伝統的治水工法の一つで、堤防の一部をわざと低く築き、洪水時には水を堤防外の遊水地に逃がす工夫です。自然災害と人々の暮らしの折り合いをつける先人の技術を見ることができます。

最後は、連携団体ヤマノカゼ舎が農山村への移住・起業の支援を行っている拠点「星降る古民家」で2日間のふりかえり、補足講義を行って終了しました。次回は9月に、揖斐川の中下流域の輪中地帯、近代治水の父デレーケの遺構、河口部の漁業と森林とのつながり等について学ぶ予定です。

 

担当教員:嵯峨創平(森林環境教育)