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2021年08月24日(火)

森林文化アカデミー・林業専攻とは(オープンキャンパス資料)

8月22日(日)に予定しているオープンキャンパスが、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、中止となりました。ご参加頂いた方々に説明させて頂く予定であった資料を以下で紹介しますので、参考にしてください。

なお入学をご検討されている皆様に対しまして、オンラインセミナーやエブリディオープンキャンパスを企画しておりますので、そちらもご覧ください。

 

① 林業ってどんな仕事?

森林文化アカデミークリエーター科の林業専攻について紹介します。

 

 

いきなりですが、皆さんは林業の仕事にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

多くの人が持つ林業のイメージは写真のようなものだと思います。

木こり、山仕事。それらの言葉で語られるように、山に入って木を伐り倒す。

確かにそれは間違いではないですが、それだけではありません。

 

 

これは林業に関連する仕事を模式的に表したものです。

横軸を左に行くほど山の現場に近く、右に行くほど街に近い仕事になっています。木材の流通でいうと左が川上、右が川下になります。また縦軸の下は現場技術系、上は計画、管理系、つまり事務的な仕事です。

先ほどの木を切り倒すイメージは左下の「森林技術者」にあたるでしょうか。本学のエンジニア科は主にここを人材目標にしています。

森林技術者には自営の方もいますが、多くは森林組合や林業事業体、NPOに所属しています。これらの組織には森林施業プランナー、フォレスターといった施業計画を立てたり、森林所有者と交渉したりといった事務系の仕事をこなす人たちもいます。

他にも公務員や林業コンサルタントといった立場で森林計画に関わる場合もあります。

木材市場や製紙、製材業なども山から出てきた木を扱う川中の業種としてありますし、川下の建築業界との間をつなぐ木材流通のコーディネートをする仕事も重要です。また周辺の仕事としてバイオマス関連産業や種苗生産の仕事、森林レクリエーションの仕事などもあります。

またこういった林業関連産業がうまく回り、山に手が入ることで森林のもつ水源涵養や災害防止などの公益的機能が発揮されてきます。そう言った意味では、林業とは人々が生活する上での基盤に関わる産業とも言えるでしょう。

 

② 林業専攻の人材目標

 

 

クリエーター科の林業専攻では、そういった「森林が持つ多様な機能」を高度に発揮させ、維持することのできる森林経営の専門家を人材目標としています。

森林の多様な機能を発揮させるには、健全な森林経営、適切な森林の取り扱いが不可欠です。

また最近のトピックとして、「ウッドショック」といったような木材需要に関わる話題を耳にすることもあるかと思いますが、木材生産、木材流通が多様化するなかで、将来を見据えた中、長期的な視野に立った経営、木材の需要と供給をつなぐコーディネーターが重要になってきています。

林業専攻では、このような多角的な視点で森林経営を構築する考え方や技術を身につけてもらえるようなカリキュラムを提供しています。

 

 

それらのカリキュラムを担当する林業専攻の教員は6名です。

林業機械、森林土木を専門にしている池戸秀隆先生、造林、育林などの森林施業を専門にしている大洞智宏先生、森林遺伝学、育種育苗を専門にしている玉木一郎先生、生産システム、生産管理などを専門にしている杉本和也先生、森林空間の利活用、森林獣害などを専門にしている新津裕先生、そして特用林産物、森林保護を専門にしている津田です。

これらの教員が林業に関連する幅広い学びをサポートしています。

 

林業は植物を対象として収穫するという点で農業と似ているところもありますが、最も異なるところは収穫までの期間が非常に長いところです。その体の大きさも全く異なります。

そういった樹木を苗木として植えてから何十年、場合によっては100年以上かけて、環境を整えながら育てていくのが林業です。目的に応じていつでも収穫できますが、専門的な知識と技術を持って、目標を立てて環境を整えていくことが要求されます。

またこのような植えて育てる人工林だけでなく、天然生の森林を扱う場合もあります。そこには異なる特性を持った多様な樹種、山菜、きのこなど様々な資源が存在しています。

さらには森林空間そのものも資源であり、森林はそれらの資源を包括的に有しているものと言えるでしょう。こういった森林の資源を持続的に利用していくには、幅広い知識と技術が必要となってきます。

特に樹木という大きな生物の集団である森林を扱う上では、自然科学の知識と技術は重要です。

 

③ 学びの特色

 

 

アカデミーの学びでは自然科学の基礎的な知識や技術を学んでもらうための様々な科目が用意されています。

森林が有する生態系サービスの知識や、森林の生物の同定技術は森林を扱う上で必須です。

樹木の同定の基礎的な技術は、林業だけでなく樹木や森林と関わるアカデミー全体の学生に向けて、共通科目として提供されていますが、林業専攻では昆虫や哺乳類、鳥類、きのこなど様々な森林の生物の同定技術も学ぶことができます。

また目的とする森林の状態や資源量を把握するための調査方法を学ぶための科目、森林の病虫害について学ぶ科目も用意されています。

 

 

かつての林業は携わっている方たちの経験によるところが多くありました。それらは勘に頼っているように見られることもありますが、大抵は経験に裏打ちされた判断基準があって行われてきたものです。

しかしながらこれからの林業はエビデンスに基づいた判断が求められます。そこでは生態学、生理学といった自然科学の知識に基づいた技術的合理性が重要です。さらには木材需要などを考慮し、割に合うか合わないかといった経済的合理性も必要になってきます。

また現場の状況は場所によって様々であり、それぞれに対応した施業技術が求められます。そしてそれは科学的エビデンスに基づいたものでなければなりません。

常にエビデンスをもとに考え判断する能力を、様々な現場で学びます。

 

 

またアカデミーでは現地現物主義の教育を重視しています。

林業専攻の授業では学外での実習も多く用意されていますが、学内にも高性能林業機械、集材機があり、製材、加工施設も存在しています。すぐ近くにある演習林を含め、林業の一連の流れを学内で学ぶことができます。

 

また林業の現場では、シカなどによる植栽木の食害などが問題となっています。

これからの林業はそのような獣害への対策もセットで考えていかなくてはなりません。ツリーシェルターや獣害対策ネットといった守りの対策はもちろんのこと、罠や銃を用いた狩猟による攻めの対策も重要です。こういった獣害、狩猟関係の授業も充実しています。

さらに「里山獣肉学舎」という名の解体施設が木造建築専攻の「自力建設プロジェクト」で学内に作られており、狩猟実習などで得られたシカなどの解体に活用されています。

 

 

現地現物主義のお話をしましたが、アカデミーでは校舎施設に隣接して33haもの演習林が存在します。大学を含め、全国でもこれだけの広さの演習林がすぐ近くにある教育機関はそうそうありません。

この歩いて5分という距離を活かした様々な実習が行われており、林業の一連の流れを現場で学ぶといった実習はもちろんのこと、ICTを活用した森林計画の実習なども実施されています。

右の写真は、木造建築専攻の「自力建設プロジェクト」で建てられた「森湊灯台」の心柱にするための材を演習林から搬出しているところです。約10mの長さで伐り出しているのですが、これも遠方ですとこの長さのままでは運ぶことができません。この時は林内作業車に乗せたまま学内まで運び込み、8mの心柱に加工されました。

すぐそばに演習林があるという強みを生かした取り組みの一つです。

 

 

林業専攻の授業では岐阜県内外の林業関係者の方々の支援も多く受けています。

県内の林業や林産業の企業によって組織されている森林技術開発・普及コンソーシアムの会員の方々には現地見学やインターンシップ、卒業生の就職まで幅広くお世話になっています。

他にも隣接する森林研究所の方や、県庁、森林管理署の方に教えていただく機会も多くあります。

また県内外の森林組合、民間の林業事業体の方々にも見学をさせてもらったり、実習現場を提供いただいたりしています。

さらにアカデミーと連携協定を結んでいる市町村にも実習現場を提供いただいています。

こういった林業に関連する様々な人とのつながりが、それぞれの学生の将来につながっています。

 

④ 卒業生の進路

 

最後にアカデミーでの学びを経た卒業後の進路について紹介します。

林業専攻の卒業生は、やはり多くが林業事業体、森林組合に就職しており、半分近くを占めています。それ以外にも自営で林業をやっている人もいますし、林業系のNPOを始めた人もいます。

また岐阜県外ですが、都道府県職員として森林行政にかかわっている人もいます。今後、岐阜県職員になって行政の立場から岐阜県の森林に関わる人が出てくることも期待しています。

緑の青年就業準備給付金の対象職種も多いため(残念ながら公務員は対象外ですが)、林業専攻を考えている方はその辺りも含め将来について考えていただければと思います。

以上で林業専攻の紹介を終わります。(林業専攻主任 津田)