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2017年09月27日(水)

教員オススメの一冊11:小学館の図鑑NEO きのこ

きのこ表紙写真

小学館の図鑑NEO きのこ
著者:保坂健太郎ほか
発行年:2017年
発行元:小学館
価 格:2000円+税
おすすめしている教員:津田 格

(10/23追記:すでに各種報道でご存知かと思いますが内容に誤記載がありました。p25のヒョウモンクロシメジが「食用」となっていますが、「毒」の誤りです。詳しくは小学館のプレスリリースをご覧ください。購入された方もおられるかと思いますが、出版社に着払いで送付すれば交換してもらえるようです。)


暑い夏もあっという間に過ぎ去り、過ごしやすい秋が到来して来ました。秋といえば「きのこ」。というわけで、今回はきのこの書籍の紹介です。
これまでに紹介されて来た書籍の多くは読み物的なものでしたが、ちょっと趣向を変えて図鑑を紹介したいと思います。

 

「きのこの図鑑でお勧めはありますか?」とよく聞かれるのですが、これまでは答えに窮していました。ある程度意欲のある方であれば、山と渓谷社の「日本のきのこ」をお勧めするのですが、8000円以上となるとちょっとハードルが高いようです。
かといって値段を下げると、代表的な種に絞り込んだものになってしまいます。最初はそれでも良いのかもしれませんが、実際に使い始めると図鑑に載っていないものの方が多く、心が折れてしまうかもしれません。またきのこの場合、食べることを目的に採って調べる方が多いので、無理やり図鑑の食用きのこに当てはめてしまい、誤食する可能性も出てきます。これは危険です。

 

きのこ採集の様子

 

そもそも何故きのこだけ、食べること(裏を返せば毒があるかどうか)を気にされるのでしょうか?植物でも魚でも昆虫でも、食用のものもあれば毒のものもあります。しかしそれらを見て「これ食べられるの?」と尋ねられることはほとんどありません。

 

どうしてでしょうか?

 

これはおそらく幼少期からの学習機会の偏りによるものだと思っています。刷り込みといっても良いかもしれません。植物や動物は小学校から理科などで学びますし、子供向けの図鑑も「植物」「動物」「昆虫」「魚」「両生類・爬虫類」「鳥」「恐竜」など、それぞれのタイトルで一通り揃っています。ではきのこはどうだったでしょうか?

悲しいことに、きのこは学校ではほとんど学ぶ機会はありません。図鑑にしても、きのこは植物の図鑑の一部のページ、せいぜい見開き1〜2ページ程度しか書かれていなかったのです。これではきのこについて正確に学ぶことはできません。結局、よくわからないながらなんとなく植物の仲間だと思い込み、日常的に食べる美味しい食材としての認識だけが形成されてきたのでしょう。
(ちなみに「きのこは他の植物とはどこが違うの?」とよく聞かれますが、そもそもきのこは植物ではありません。これも図鑑などでのきのこの扱われ方と関連していると思います。同様に「昆虫って動物?」ともよく言われますが、これも動物図鑑が哺乳類に特化している弊害だと思っています。)

 

ヌメリスギタケモドキの写真

 

そんななか、ようやく待望の子供向けきのこ図鑑が出版されました。それが今回紹介する「小学館の図鑑NEO きのこ」です。

子供向けとはいえ、掲載されている種数は約700種。上にあげた大人向け図鑑でも1000種弱の掲載であることを考えると、これは十分な量です。
そしてそれぞれの種類について白バックの美しい写真が採用されており、様々な色、形のきのこが並んでいるのを眺めているだけでワクワクしてきます。全てではありませんが生態写真もあり、どのように発生しているのかを知ることもできます。
きのこは分類群ごとにまとまっていて、グループの特徴も比較的捉えやすいかと思います。きのこの分類はDNAの解析情報をもとに近年大きく改変されているのですが、この図鑑ではその最新の分類体系を採用しているのもポイントです。
きのこの生態や食毒、料理、きのこ栽培なども一通り紹介されています。外国で食べられているきのこ、地下生のきのこ、色が変わるきのこ、きのこを利用する植物など特集ページも充実しています。

 

ただし、この図鑑ではきのこの同定(形態などから名前を確定すること)は難しいかもしれません。特徴的な形態の種であれば可能かもしれませんが、それぞれの種の説明が少なく、確実な同定には不十分なのです。また、属(科より下の分類群)がわからない、学名が書かれていないなど、ある程度知っている人や突っ込んで知りたい人には少し物足りないかもしれません。しかしこの価格でこの内容であれば、十分お釣りはきます。
(付録としてDVDが付いています。某猫型ロボットとともに森林へきのこ探しの旅へ。貴重な映像もあり、こちらも一見の価値ありです)

 

子供たちだけに独占させておくのは勿体ない。むしろ好奇心溢れる大人の方にオススメです。眺めているだけで十分楽しむことができ、知らず識らずのうちにきのことは何かがわかってくるでしょう。ページをめくるたびに現れる、めくるめくきのこワールドへ、あなたも足を踏み入れてみませんか。そしてフィールドへ出かけてみましよう。そこにはこれまでと違った世界が広がっているはずです。

 

イカタケの写真

津田准教授

津田 格
菌学、線虫学
研究テーマ 特用林産物の生産
野生きのこの利用
きのこの病害虫

 

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