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2021年08月17日(火)

木工事例調査④「桂川木工」中津川市連携事業

今年も連携協定を結んでいる中津川市の林業振興課にご協力頂き、中津川市の木材産業を巡る木工事例調査を実施しました。中津川市は木曽ヒノキや東濃ヒノキで知られる木材の一大生産地であると同時に、全国でも有数の木工が盛んな地域です。
学生達の目線から報告するレポート第4弾は、経木(きょうぎ)を専門に作る「桂川木工」さんです。

加子母に工房を構える桂川木工さんを見学しました。桂川木工さんは御年89歳の桂川さんと奥様の2人で、「経木」とよばれる木工品を製造する会社です。

桂川木工

「経木」とは主にヒノキやスギ、マツなどの針葉樹の木材を薄く削り、古くより食品を包む包装材や、使い切りの器として利用される木工品です。今回はその経木の製造工程を実際に見せて下さいました。

経木作りの工程は大まかに以下の4つに分けられます。
① 丸太の見極め
② 木取り(削りやすい大きさにカット)
③ スライス加工(スライサーorロータリー(詳細は後述参照))
④ 乾燥

① 丸太の見極め

丸太の見極め

丸太の状態を確認する様子

経木の出来を大きく左右する工程のなかのひとつです。買い付けの際は丸太の断面や樹皮をよく観察したり、叩いてみてよく響くような音がするかどうかを確認するそうです。長年にわたり培われたその観察眼はなかなかマネできることではありません。

② 木取り(削りやすい大きさにカット)

スライサー用にカット

バンドソーで切断する様子

先ほどの丸太をチェーンソーで70センチの長さで切った後、バンドソーと呼ばれる機械で直方体にします。この加工は後述のスライサーと呼ばれる機械に通すためのものです。(ロータリー用の加工は今回の実演では行われませんでした)桂川さんの手つきは驚くほど速くためらいが全くないため、一見簡単そうに見えましたが、木目を確認し、削るときに逆目※にならないよう気を使って加工するそうです。あの手早い動作の中で後の工程のことを考えながら作業していると思うと、驚くばかりです。
※逆目(さかめ)とは、加工時に刃が木目の流れに対して繊維をむしってしまう方向になること。

③ スライス加工(スライサーorロータリー)

スライサーで削る

スライサーで削る様子

経木を作るスライサーと呼ばれる機械は「かつお節削り器」に似ています。刃のついた台に木材を乗せ、刃の上を水平移動させて削ります。一見機械任せで簡単のように見えますが、刃の角度や当て具合の調整がかなり難しいそうです。木の繊維に沿って削られるため繊維方向の耐久性は高く、またロータリーに比べ分厚く削ることができるため丈夫なものができます。

ロータリーで削る

ロータリーで削る様子

ロータリーとdd呼ばれる機械は大根の桂剝きをするイメージに似ています。樹皮を剝いた丸太をセットし、材を回転させながら削ります。あまりにもシュルシュルとなめらかに削れていくため、見ていた学生たちから「おお~!」と声が上がるほど。スライサーでできたものに比べると薄く強度はないものの生産スピードが早く、長い寸法のものができます。この機械は50年以上も使用されているそうです。

④ 乾燥

経木を干す

(キャプション:工房の天井にぶら下げられ干される様子)
経木は基本、生の木材から削るため、乾燥が必要です。薄いため時期によっては急激に乾燥してしまい、割れが生じてしまうため、湿らせた袋にいれるなどの措置が必要だそうです。今回の見学は梅雨時期だったのでそのまま吊るして干しています。干す際は経木をはさむための竹でできた道具が使われます(下写真参照)

竹ばさみ

経年変化であめ色になった道具

長年何度も繰り返し使われて、美しくあめ色になった様子からは、道具を大切に扱う心をひしひしと感じ、見習わないといけないなと思いました。

これらの工程を経てできる経木は現在、深刻な後継者不足に陥っています。岐阜で生産しているのは桂川さんだけで、全国的にも生産者は非常に少なくなっています。プラスチック製品の登場で、一時期は生産数が減ったものの、近年SDGsが世の中に浸透し始め、環境意識が高まっている影響で需要も高まっており、これからもさらに必要とされると思われます。

経木には様々な可能性がまだ秘められています。包装材や、器として使えば、食材の余分な水分を吸収し、かつ木の良い香りをほのかに移します。また調理道具として使えば、フライパンの下にひいて余分な脂を吸収し、焦げ付きを防ぎます。後世に経木を残していくためには、後継者育成だけでなく、経木の素晴らしさや機能を生かした新たな使い方、商品を世の中に発信・提案することが必要なのではないかと感じました。

桂川さんは仕事をする上で大事なことは、木を見る力を養う事と切れる刃物を砥ぐ事とおっしゃっていたことが印象的でした。この言葉からは長年培われた経験からくる言葉の重みを感じました。
今回の見学では、沢山の経木をお土産に頂きましたので、学生間でも色々な使い道を試してみたいと思います。お忙しい中、時間を割いて工房の説明をしていただきまして、本当にありがとうございました。

森と木のクリエーター科 木工専攻一同
文責:奥山茂(2年) 坂野幸太(1年)