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2021年04月15日(木)

二酸化炭素濃度はどのくらい?(morinos建築秘話60)

COVID-19の対策として換気(空気質)が注目を集めています。

換気方法には、窓開けによる「自然換気」、換気設備による「機械換気」、温度差を利用した「重力換気」の3つの方法があります。

自然換気については、morinosでは十分な開口面積を確保しており、実際この換気方法が最も取られています。
CASBEE Sランク~環境品質向上の取り組み~(morinos建築秘話44)の「Q1.4.2.2 自然換気性能」で簡単な紹介をしていますので参照してください。

また、仮に建具を全て締め切った場合でも、機械換気設備で24時間、換気扇が作動していて概ね0.5回/h(2時間で中の空気がまるっと入れ替わる換気量)くらい程度の換気量を確保しています。

morinosは運用の性格上、春から秋にかけてはほぼ建具を開放しており、自然換気が優勢だと思いますので、寒い時期の閉め切った場合の換気状況が気になるところです。

実際の換気状況はどうだったでしょうか。
空気の動きは逐一測定ができませんので、換気状況を判断する指標に二酸化炭素濃度(以下、CO2濃度)で確認することが一般的によく知られています。

人が活動する際に、呼吸によってどんどんCO2が排出され、閉じ切っていると室内のCO2濃度が上がっていきます。
そこで換気の出番です。適切に換気できていると、外気で薄められてCO2は高濃度になりません。

現在、外気のCO2濃度は概ね410 ppm(2019年)です。
2000年頃は、370 ppmでしたので、温室効果のあるCO2濃度が、この20年で1割近く上昇したことになります。
参考HP:気象庁 二酸化炭素濃度の経年変化

CO2濃度の目安としては、1,000ppm(空気全体の0.1%)以下を目指して換気することになります。

 

では実際のCO2濃度の変化を見てみましょう。

2021年1月25日(月)~1月31日(日)のCO2濃度(上段)と騒音(下段)の状況(3時間毎の平均値)

冬期の1週間を見てみます。

1月25日(月)~31日(日)の1週間で約209人の利用者数がありました。
25日からの利用者数は20人、6人(休館日)、3人(休館日)、17人、31人、27人、105人(日曜日)。やはり日曜日は多いです。

一番寒い時期ですので、基本は建具は閉めています。

下図の上段がCO2濃度の変化、下段が騒音の変化です。

CO2の変化を見ると、3時間毎の平均値ですが概ね目標の1,000 ppmを下回っています。

1週間の変化を眺めてみると、日中は来場者とスタッフによってCO2が増加し、無人になる夜間に徐々にCO2が下がって、外気に近い400 ppmに近づいています。
火曜と水曜は休館ですが、スタッフが活動していたのでしょう。騒音はほとんどありませんがCO2濃度が上昇しています。

2021年1月31日(日)のCO2濃度(上段)と騒音(下段)の状況(5分毎の平均値)

この1週間で最も利用者数が多かった1月31日の1日の変化をもう少し詳しく見てみましょう。
この日は、人の入れ替わりも多いですが、105名の来場者がありました。

13時34分に最高値 775 ppmを記録しています。お昼を食べるために、屋外から室内に戻ってきたのでしょう。
その後、徐々に下がっています。夕方にかけて来場者が減ったことが考えられます。

morinosでは、冬期も外部で行うプログラムが多く、人の出入りも多いので、CO2が高濃度になる機会は少ないかもしれません。

2021年4月12日(月)morinosの平日+夜間の部門会議。CO2濃度(上段)と騒音(下段)の状況(5分毎の平均値)

ここまでは、冬期におけるmorinos開館時の状況を分析しました。

開館時は不特定多数が、入れ替わり立ち代わり出入りしますので、換気状況がよく分かりません。
1週間の変化から概ね目標値以下になっていることを確認しましたが、人の出入りがわかる状況での分析をしてみます。

4月12日(月)は通常の開館日。日中は4人の来場者。春休みが終わっての平日はからり少なくなっています。
ですが、夜間に17人が集まってmorinosの作戦会議がありました。

一日の変化(下図)を見てみましょう。

日中のCO2濃度は600 ppm以下と、十分な換気ができています。

ですが、閉館後の夕方から、スタッフが集まってきます。
春とはいえ、寒さが残りますので閉め切っての会議。
20時頃に1,200 ppm弱まで上昇しました。(これでも十分許容範囲です)
20時半に解散して、徐々にCO2濃度が下がります。

さらに翌日・・・

 

2021年4月13日(火)morinos休館日の作戦会議。CO2濃度(上段)と騒音(下段)の状況(5分毎の平均値)

2021年4月13日(火)は、スタッフ一同9名のみで朝から昼まで快適運営のための会議です。この日も基本は、建具を閉め切っています。

この日の様子を見てみます。(下図)

前日夜の会議の影響があり、機械換気で少しづつ換気されており明け方で600 ppm程度です。

8時頃からスタッフが集まりだし、9時には白熱した議論が始まっています。

それに伴って、CO2濃度も上がっていき、9:56には1,000 ppmを超え、12:48に最大1,298ppmまでCO2濃度が上昇しました。

ここで昼休み。少し換気して900 ppmまで落として、その後、安定しています。

CO2濃度が増えるということは、酸素濃度が下がっているということ。集中して議論するためにも、適切な換気が必要です。

15時くらいに、森林文化アカデミーの新入生25名+教員がやってきたため、建具を全開放。一気に600 ppm以下まで下がりました。
自然換気の効果は絶大です。

morinosでは、冬期の換気もしやすいように、2つの手法を取り入れています。
・床下暖房エアコンによって、室内の短時間の換気では床下に暖気が残り、足元の温度を急激に下げない工夫をしています。
・薪ストーブの放射暖房機によって、空気温度が下がっても、放射熱によって暖かさが維持できるように工夫しています。

CO2濃度が2,000 ppmを超えてくると、眠気も襲ってきます。
授業で眠くなるのは、単に先生の話が面白くないから、、、だけではなく、CO2濃度が高まっていることも関係があるかもしれませんね。

でもアカデミーは少人数教育がウリなので、CO2濃度はそこまで高くなりません。眠気が襲ってくるのは先生の責任かな・・・。

准教授 辻 充孝

morinosマニアック1―――――――――――――

二酸化炭素(CO2)の含有率基準

不特定多数が利用する建物における二酸化炭素(CO2)濃度の目安として、
厚生労働省の「建築物環境衛生管理基準(通称 ビル衛生管理法)」の空気調和設備を設けている場合の基準では1,000ppm以下に概ね適合するように努めなくてはいけないことになっています。
また、文部科学省の「学校環境衛生基準(H21年)」の換気基準としては、1,500ppm(0.15%)以下であることが望ましいとなっています。

例えば、CO2の許容濃度の1,000 ppm(パーツ・パー・ミリオン)とは、1m3中に0.001 m3(1ℓ)のCO2ということ。ちなみに外気は400 ppm(0.0004 m3)程度。

人の呼吸から排出されるCO2は安静時(就寝時)の0.01 m3/h・人(10ℓ)から重作業の0.09 m3/h・人(90ℓ)まで様々ですが、一般的には0.02 m3/h・人(20ℓ)で考えます。

ちなみに4月13日の白熱した議論では、0.04m3/hくらいはCO2を出していたのではないでしょうか。

必要換気量(m3/h)=室内発生のCO2(m3/h) ÷ (室内CO2許容濃度(m3/m3)-外気CO2濃度(m3/m3))

で求められますので、
1人あたりの必要換気量は
0.02÷(0.001-0.0004)=33.33m3/h

morinosの気積は565m3。換気扇の風量が常時260m3/hで作動(概ね0.5回/hの換気量)していますので、8人くらいであれば閉め切っていても1,000 ppmを超えることは無いでしょう。

4月13日の状況は9人が締め切った空間にいて、しかも白熱状態。1,000 ppmを超えるのは仕方ないですね。

※シックハウス対策としての換気は住宅の居室で0.5回/h、それ以外の居室で0.3回/h以上(morinosはこちら)の性能が必要です。

また、石油ストーブなどの煙突のない開放型燃焼器具は、人の呼吸の10~20倍のCO2を発生させますので基本的に使用を控えるべきです。
morinosの薪ストーブの排気は煙突から直接外気に出ていきますので、これには当たりません。

 

Morinosマニアック2―――――――――――――

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と換気

感染経路の大半は接触感染と飛沫感染です。そのため、基本的な対策(マスク着用や手洗い、人との距離間確保など)は、まず第一に取り組むべきことです。

また一般的に、感染症を発症するのにある程度の病原体数が必要とされます。
COVID-19は感染者から排出された微小粒子による空気感染のリスクも指摘されており、空間のウイルス濃度を下げる換気が有効と考えられます。

窓開けの自然換気は最も単純な換気法ですが、窓を開けにくい冬期や花粉症の時期は注意が必要です。熱交換やフィルターで管理できる機械換気も有効ですので、手動窓換気と合わせて工夫しましょう。