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2021年02月21日(日)

低周波の電磁場測定(morinos建築秘話56)

バウビオロギー(建築生物学)の授業の一環で、morinosの電磁波測定を行いました。

電磁波の測定と聞いても「何のこと???」となってしまいますので、まずは電磁波の簡単な解説をしてみたいと思います。

電磁波とは?

電磁波とは電場と磁場が互いに誘導しあい空間を伝わるエネルギー放射です。

電磁波には周波数(1秒間に繰り返す波の数)や波長があり、各周波数によって性質が違い、遠くへ伝わる力や生体に与える影響なども変わってくる特徴があります。

下図に示した周波数別の名前を見てみると、聞いたことがある名前もありますね。
例えば、光を表す可視光線や紫外線は405~790THzあたり、最近普及しつつある5G(第5世代移動通信システム)はミリ波(28GHz帯)を使用します。
単位が大きすぎて、非常に早く振動していてイメージがわきません。

今回計測したのは、通常の電気から発生している超低周波電磁波の60Hz(関東圏は50Hz)です。

この周波数帯では、電場と磁場に分けて計測可能です。

「電場」は電気の力が働く場(電圧がかかっている状態、つまりコンセントにさしていると発生)で、「磁場」は磁力の力が働く場(電流が流れている状態、つまりスイッチをオンにした状態で発生)に発生しています。

ドイツやスウェーデンでは電磁波と健康に関する認知度も高く、本学の授業「バウビオロギー(建築生物学)」においても、重要なテーマとして取り組んでいます。
ですが、日本の住環境では電磁波に対しての配慮はほとんど行われておらず、電磁波による健康影響が懸念されます。

測定について

電磁波規制の中でも厳しい値を掲げている国の一つがスウェーデンです。
MPR-II(スウェーデンのVDT規制)というパソコン等の表示機器から発生する電磁波の規制では、50 cm離れた地点で低周波電場は25V/m、低周波磁場は2.5mGを下回ることを定めています。

今回の計測では、厳しめの基準としてMPR-IIの値を危険度の判断基準としました。

今回の判断基準値
 電場:25 V/m(ボルト/メートル)
 磁場:2.5 mG(ミリガウス)

建物全体の状態を把握するためにグリッドを決め測定しました。
低周波電場、磁場、それぞれの伝わり方や人間の生活上の重要部位の高さを考慮し、床面0 cmと高さ110 cm(着座時の頭の高さ付近)での測定を行いました。
また壁面も測定を行い、高い値を示すところがあった場合は原因などを究明しつつ、細かく測定をする必要があります。また電気機器周辺の値も測っておくことも大切です。

電場測定結果

morinosの室内の低周波電場の測定結果です。(休館日で、基本的な設備以外動いていない状況での測定結果、130Wの電力消費)
電場計測に用いた計測器は、「低周波電磁波測定器 FM6」です。機器自体が電場に侵されないように機器にアースを取って計測しています。

電場は物体にそって伝わるため、110 cmの高さでは、ほぼすべてのポイントで基準値以下です。(収納庫のみ棚を伝わって上がってきた影響で一部基準値以上の箇所がありました。)

下図は床面の電場の強度に合わせて色を付けています。

青:25V/m以下(基準値以下)
オレンジ:25V/m~50V/m(少し高め)
赤:50V/m以上(気になる強度)

青いポイントが半数程度。
オレンジのポイントが1/3程度。
一部、電場の高い赤いポイントが発生しています。

赤いポイントは、北西面の発生していました。
原因として考えられるのは、分電盤や情報版が設置され、配線が密集しているためと考えられます。
高いといっても最大値は床面で57V/m。ものすごい高いというわけではありません。(金属フレームの収納棚の一部で120V/mを計測)

外に回って、分電盤周辺も計測。
室内とあまり変わらない状況で25V/mを少し超える程度です。

健康に与える影響を考えると、

強度 × 暴露時間 × 個人の資質

と考えられるため、多少測定値が高くても通り過ぎるだけ(暴露時間が短い)であれば、ほとんど影響がないと考えられますが、長時間同じところにいると影響度が高くなります。

その視点で見てみると、長時間滞在しそうな薪ストーブの周辺や、豆型大テーブルあたりは問題ありません。
南のカウンターはコンセントがあり少し高めの数値となっています。

気になったのは、北西壁面です。
室内で高めな数値が検出された値が、外部でも同様かそれ以上の値が計測されました。
壁内部に配線が密集している可能性が考えられます。

この外壁近くには、ベンチが設置されており長時間の滞在も危惧されますが、これまでの実績を考えると、気持ちの良い南に対して、この北面ベンチはそこまで活用されていません。荷物を置いたり、少し休憩する程度ですので大丈夫でしょうか。

南東側の床面もオレンジ色で、少し基準値を超えています。これは、床埋め込みのコンセントが影響していると考えられます。
コンセントはどこ?(morinos建築秘話8)を参照

実際、コンセントの木蓋を計測すると、128V/mと高い値です。ですが、これも蓋の上に長時間座ってなければ問題ないでしょう。

次に設備のオンオフでどの程度変化するかを確認してみました。
半分床に埋め込んでいるエアコンです。オフの状態では32V/mとそこまで高くありません。オンにしても大きな変化はありませんでした。

実はエアコンは室外機がメインの設備(ここで熱を取り出しています)ですので、室外機も計測しました。
ファンの中央部は、室内機の倍の66V/m。少し離れると、25V/mも出ていませんので、問題ありません。

磁場測定結果

morinosの低周波磁場の測定結果です。(休館日で、基本的な設備以外動いていない状況での測定結果、130Wの電力消費)
磁場計測に用いた計測器は、「磁場測定器 G-8」です。

磁場は電流が流れた時に発生しますので、機器を使用していないときはほとんど発生しません。

下図は床面の磁場の強度に合わせて色を付けています。

青:2.5 mG(基準値以下)
オレンジ:2.5 mG~5.0 mG(少し高め)
赤:5.0 mG以上(気になる強度)

休館日ということも影響して、床面0 cm、床上110 cm高さのすべてのポイントで基準値以下です。(南の赤いポイントは後述)

一か所づつ、位置を図りながら、グリッド上に計測しています。

機器を使用していないときは磁場が少ないことがわかりました。
それでは機器のスイッチを入れたらどうなるか・・・。

エアコンの運転を開始して計測しました。エアコンの室内機の一部で、30 mG、分電盤の一部で20 mG、エアコンの室外機のコントロール部で35mGと判断基準の14倍もの値が計測されました。

ですが、少し離れると一気に数値が下がりますし、長時間滞在するところではないので大きな問題はないでしょう。

どの程度減衰するのか、morinosの南カウンターに置いている1200Wの電気ケトルで計測してみます。(上記、磁場マップの赤い部分)

電源を入れると、消費電力が1200Wなので、12Aという大きな電流が流れます。(100V×12A=1200W)
磁場測定器を近づけると、33.2 mGと基準値の13倍近い磁場が発生しています。

ですが10 cm離すと、6.4 mGと一気に1/5程度まで減衰しました。
20 cm離すと1.2 mGと基準値以下です。

磁場に関しては、機器からの距離を取ることで防御できます。

特に電気ケトルや電子レンジなどの消費電力の大きな機器を使用するときは、使用中はのぞき込まず離れるようにしましょう。

今回、morinosの低周波電磁波を計測しましたが、問題となるような箇所はほとんどありませんでした。
安心して利用していただければと思います。

准教授 辻 充孝

morinosマニアック------------------

近年問題になってきている電磁波

近年、人が電気や電波などを使うことで身の回りに増えてきた電磁波が問題となってきています。
その中で建物内で課題となるのが低周波電磁波です。50Hz、60Hzの交流電流を利用している一般の電気機器やその電気を送電している電線などのインフラから強い強度で発生している場合もあります。

これらが人体に悪い影響を与えているという研究も出てきています。
例えば、疲れ、頭痛など日常で何気なく感じている症状にもその影響は認められており、そのような反応が酷くなった症状を「電磁波過敏症」と呼びます。

電磁波に関して、世界保健機関(WHO)では、世界中で公表された数多くの研究結果について評価し、その結果を2007年に環境保健基準(クライテリア)No.238として公表、同時にファクトシートNo.322を公表して、WHOとしての見解を示しました。

「電磁波による健康影響について、全世界で多くの研究が行われているが、それらの研究の結果を総合的に判断して、身のまわりの電磁波で、小児白血病に関連する証拠は因果関係とみなせるほど強いものではない。その他の疾病は更に証拠が弱い。」

として、生活環境レベルでは健康影響はほぼ無いこととしています。ですが、安全のためになるべく回避されることが望ましいと考えられます。

これらの影響は、個人差も大きく人によっては、安定した睡眠が阻害されたり、体調を崩す人もいることもあります。
実際、学生自らの課題として、森林文化アカデミー課題研究(2008年)で「電磁波に対する住まい・暮らし片からのアプローチ -電磁波被爆の低減を目指す-」という題目で研究を行った学生もいます。

現状の一般的な住まいでは、低周波電場は電気機器、屋内配線、コンセント、スイッチ、機器、分電盤などから発生していることが多く、低周波磁場が強い強度で発生している場所は電気機器、スイッチ、分電盤、たこ足配線コードなどです。

日本の住まいでは電磁波対策がほぼなされてこなかったため、低周波電場の強度が全体的に強いことが多いです。

特に屋内配線の経路などについて全く配慮されてこなかったため部屋の中央を通っていて、その上にテーブルやソファーなどを置いて生活していることもよくあります。

また、一階を除けば、すべての階で床下配線から発生する低周波電場は床面や室内にまで伝わってきていて、強い強度が測定されることがあります。今回の計測のように、壁面や天井面でも強い値は計測されることもあります。

電場は床や壁、収納などの家具を伝って広がるのに対し、磁場は使用している機器から広がります。(下図)

 

海外では、電圧が250V程度のところが多く、基本は3足のアース付きコンセントで、電場を取り除いています。電圧が高いために、同じ消費電力でも電流は少なくてすみ磁場も少なくなります。

日本においても、今後電磁場環境の対策がとられていくことを期待しています。