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2020年03月18日(水)

丸ノコなぐり?ベンチ(morinos建築秘話13)

大きな空間から掘り込まれたところに、宙に浮いたようなベンチが据え付けられています。
今回はこのベンチのはなし。

木材は耳の付いた厚みが6cmもあるカバノキです。
ジリさん曰く、背板の木目がいかにもウダイカンバではとの情報も。(木材同定がしっかり出来たらこのブログも修正してるかもしれません)

さて、今回の本題はベンチの表面仕上げ。下の写真の座面のアップを見てください。

なにやら独特のデコボコがあり、気になる質感が感じられます。触ってみたくなりますよね。

せっかく厚い板を用いてベンチを作るのなら、座った時の感触なども、木の仕上げを変えて、いろいろ体験してほしいという想いで、表面加工を「名栗(なぐり)」にできないかとの相談を持ち掛けました。

名栗とは、「ちょうな」や「突きノミ」、「ヨキ」などの日本古来の道具を用いて、独特の削り跡をつくる加工技術です。名栗仕上げにも、いろいろな文様がありますので、調べてみてください。

さて、morinosです。
大工さんや現場監督さんと、どうやって加工しようかと定例打合せで何度も相談しました。

予算がしっかり確保できていれば、名栗の専門業者に材を運んで加工してもらうということもできますが、今回の限られた予算と人材リソースで可能なものはどんな仕上げかと・・・。

出てきたサンプルが、下の写真です。大工さんの自信作。触った感じもなかなかいいです。

「難しいって言ってたけど、いい感じじゃないですか。どうやって作ったんですか?(私)」
「丸ノコで削りました。(大工さん)」
「・・・・・ええ!!(私)」

使い慣れない「ちょうな」などより、慣れ親しんだ「丸ノコ」の方が自由に加工できるということでしょうか。

仕上がりは「ちょうな」では出せない独特の削り跡。
「丸ノコ」を使った現代の名栗加工(morinosオリジナルの丸ノコ名栗)と呼べるものではないでしょうか。
morinosのベンチははこれで行きましょうと即決。

ベンチのコーナー部分は留め(斜め45度で合わせる加工)で納まっています。(下の写真の2枚の板がつながっている部分)
ここの名栗の削り目をどうするか。この部分だけ2枚の板を接合してから、再度加工を施し一体感が出るようにしています。よく見てみると、接合部もつながって加工されているのがわかります。

外注して名栗をお願いすると、こうはいきません。

背板は同じカバノキでツルッとした表面加工。

座られた際はぜひ同じ材の手触りの違いを楽しんでくださいね。

さて、ここからは少し建築的なはなし。

この分厚い6cmの板が宙に浮いたように設置されています。
重い材を軽く見せる逆説的な近代建築の表現手法です。

構造はしっかり検討してますので安心してください。
二重壁(これはまたの機会に紹介します)の最奥から、鉄骨下地を持ち出し、この上にベンチが置かれます。背板も下地がしっかりと固定されて、ここに背板がこれも浮いたように取り付きます。

下から見上げるとこんな感じ。座った感じもがっちりしています。

ベンチが宙に浮いているため、隣に置かれた薪ストーブ用の薪置き場や道具置き場、来場者の荷物置き場として活用しやすいようになっています。

この宙に浮いたベンチのデザイン。
木の脚でがっちり作られていると、自然な安定感の中、ベンチにも関心が行きません。
少しの違和感があることで、来場者はどうなってるの?と興味、感心が高まるはずです。

木材だけだと、どうしても断面が大きくなり、日常の延長に感じられるデザインになってしまうところを、土という空間の中に木だけが浮いている少しだけ非日常の演出。

今回は鉄という素材の助けを借りたことで、より木材の個性が出てきたのではないでしょうか。

准教授 辻充孝