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2020年09月11日(金)

木工事例調査 美濃 岐阜③「ツバキラボ」

クリエーター科木工専攻とエンジニア科2年林産業コース有志で美濃市、岐阜市にあるシェア工房、木工教室などの事例調査を行いました。

最終回の第三弾は岐阜市「ツバキラボ」です。最後は二人のレポートです。


会員制木工シェア工房 ツバキラボを見学させていただき、代表の和田賢治さんにお話を伺いました。和田さんは森林文化アカデミーにて5年間教員を務められた後に現在のツバキラボをオープンして4年目になります。同じく森林文化アカデミー出身の木工職人 安間将義さんとお二人でツバキラボを切り盛りされています。

代表の和田賢治さんにお話を伺いました。

 

 

ツバキラボは木のものづくりをより多くの人が楽しめるように、本格的な木工ができるシェア工房です。工房の内部はとても広く、木工の各種機械と作業台が何台も並んでいました。一般の人を対象に木工教室、木工旋盤教室を開催しており、レッスン受講後はツバキラボの木工機械を利用できるようになる工房設備をシェアする仕組みが設定されています。毎年数十人ほどの会員がいて、地元岐阜県をはじめ名古屋や遠く県外から工房に通われている会員の方もいるそうです。

 

とても広い工房内部

 

説明をお聞きする中で特に工房内設備の安全対策に気を使われていることを感じました。

一例として丸のこ昇降盤の木工機械では丸のこに微弱な電流が流れていて、人の手が触れるとそれを感知して丸のこの回転をストップさせる“Saw Stop”というシステムを採用していました。以前にこのシステムが働いて会員の方が怪我をせずに済んだ事例があったとお聞きしました。今後も安全が備わった機械を順次導入するとの事でした。

安全対策を施した機械の導入

 

 

 

シェア工房の他にもオーダーメイドでの家具製作や小ロットでの木製オリジナルプロダクトの開発サポート、また地元の木材をもっと活用するためのコンサルティング等を事業内容として幅広く実施されています。

木工旋盤

 

木材を種類毎に管理

 

岐阜県材を主体に使い、地域の木を地元の人が使うことを大事にされており、「身近な資源を使い、自分でつくる」ことを当たり前にすることがツバキラボのミッションとの事で、「木工を、あなたの日常に。」とするツバキラボのモットーが伝わって来て、とても共感を覚えました。

お忙しい中、時間を割いて工房の説明をしていただきまして、ありがとうございました。

 

文責:奥山茂(クリエーター科 木工専攻1年)

 


今回の木工事例調査は岐阜県岐阜市椿洞のTsubaki lab(ツバキラボ)に伺いました。

 

ツバキラボの代表、和田賢治さんのTwitterを拝見すると、プロフィールには・・・

 

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木工家&経営者▽ものづくりを日常に▽地域材流▽本格木工シェア工房ツバキラボ  (http://tsubakilab.jp)▽木工旋盤メディアTURNING TALK(http://woodturning.tsubakilab.jp)▽16歳ミャンマー留学→アメリカ→トヨタ自動車→木工→ツバキラボ起業

▽木工家ウィークNAGOYA実行委員長▽空手

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まだ39歳と若い和田さんですが、とても多彩な人生経験、そしてプロフィールの先頭には「木工家&経営者」。世に木工家を生業とされる方は数多くいらっしゃいますが、「&経営者」と名乗る方は少ないのではないでしょうか。そんな和田さんにお話を伺いました。

 

木工の道、そしてシェア工房openへ・・・

トヨタ自動車で日々多忙を極める中、身近なDIYからの木工を体験。いつしか自然に寄り添って暮らすことを意識し、その後大きく進路を変更。28歳で高山市にある森林たくみ塾へ入塾、卒業後は森林文化アカデミー講師も務め、その後独立。Tsubaki labを設立して7月でちょうど4年目を迎えられました。

シェア工房という形は「生活の道具を自分で作り、修理するのが当たり前になれば」という想いの一方で「木工をできる場所が身近にない」ということから。さらに和田さん自身は家具などの作り手というよりは、木を生かした事業の展開を考える方が自分には向いていると思ったからとのお話でした。

 

工房では安全が第一・・・

Tsubaki labの工房は建築会社が使っていた作業倉庫を利用した広く天井も高い建物。そこにプロの木工家が備える木工作機械が並び「なんでも作れそう!」と期待が膨らみます。しかし実はこの「プロ向けの機械」が、趣味で木工を楽しむ人の機械利用においては課題になります。プロ向けの機会は安全教育を受けた作業者が機械を利用することを前提とした作りになっており、高速で回転する刃物に加工する木材を手で近づけていくという操作が基本です。誤った使い方をすれば指を欠損するような大怪我の発生が起こりかねません。和田さんがTsubaki labを始めるにあたって最も重視したのが、工房利用者の安全確保。その対応として二つの大きな取り組みをされています。

 

その1:レッスン受講

工房を利用するためのレッスン受講を必須にしています。レッスンは木工機械、電動工具の使い方、木の扱いについて6日間にわたって講習をおこなっています。趣味の世界で6日間はかなり長いという印象ですが、やはり安全の確保には人が機械加工の正しい知識と技術を身につけることが欠かせません。

 

その2:安全装置

日本製の木工機械は加工精度が高く、また作業効率も良いとされる反面、安全面では安全教育を受けた作業者が使うことを前提としているため、プロ以外の人にとっては安全性が課題です。

特に木材を縦横に切断する機械(昇降盤、横切りという機械)では刃物に手が近づく可能性が高く、大きな事故になりかねません。そこでTsubaki labでは体の一部が刃に少しでも触れると微弱電流を利用して瞬間的に回転刃を止めるシステムを持ったアメリカsaw stop社のテーブルソー、さらにイタリアの木工機械メーカーSCMのスライドソーを導入。通常の機械よりもコストアップになりますが、まさに安全第一での判断がされています。その他の機械についても刃物カバーを工夫するなどが行われています。

 

岐阜の木、地域材の利用・・・

Tsubaki labを始めるにあたり和田さんが大切にしたことのもう一つの想いは、地域材をもっと使って欲しい、また自分たちが使うレベルの量ならば岐阜証明材もしくは近隣で伐採し製材された木材を使うことができるのではないか、というもの。この想いを実現するには木工で使えるレベルに木材を乾燥させる技術(*1)がポイントになります。そこで和田さんは自らバイオ乾燥機という装置を導入(低温で細胞を破壊することなく乾燥をさせることができる特殊な技術だそうです)、現在は樹種による乾燥条件の検証を進めているとのことです。乾燥機の利用が軌道にのれば、針葉樹の伐採作業に伴って伐採されたり、森林ボランティアなどの活動で伐採された、数量がまとまらないために通常はバイオマス発電などの燃料になってしまう広葉樹を利用した物づくりが始められるかもしれません。 

 

また岐阜県産の広葉樹材を幅広く仕入れて、Tsubaki lab会員が入手しやすい環境も作っています。材料の置き場所には樹種ごとの特徴や比重などを表示してあり、使い道のヒントにもなっています。ちなみに多くの材料の在庫量は日々管理されていて月次決算への反映もされているとのこと、和田さんの経営者の側面を垣間見ることができました。

 

 

情報発信も多彩・・・

和田さんはTsubaki labとしての情報発信以外にも、ウッドターニング(木工旋盤)の情報発信サイトWOOD TURNING TALK、和田さん自身のブログサイト Simplife+、その他にもSNSアカウントを幅広く展開され、それぞれが適切にアップデートされています。

 

木工家というと・・・

木工家とは、家具をはじめとした「木製品を作る人」というイメージではないでしょうか?しかし和田さんはそのような概念を軽やかに飛び出して「木を生かした何か、を展開する事業家」でした。

木工専攻で学ぶ私たちが将来を考える上でもとても貴重なお話を伺うことができました。本当に忙しく活動を続ける和田さん、貴重な時間をいただきありがとうございました。

 

脚注

*1:木の乾燥について

木は伐採し、製材(丸太を板の状態に切ること)した段階では多くの水分を含んでいます。そして木に含まれた水分は、そのまま放置しておいても徐々に空気中に放出されて乾燥が始まり、木材は製材直後のサイズから縮んだり、割れるなどの変形を起こします。そのため十分に乾燥をさせてから家具や道具を作らないと、完成後に変形やひび割れなどを起こして最悪の場合、壊れたり使えないモノになってしまうのです。ちなみに十分に乾燥された材でも、材が置かれた環境によって空気中の水分を吸ったり吐いたりを繰り返してわずかに変化を続けるので、木が動くと表現します。

また日本の森林は古くから建築材料向けの針葉樹が多く、針葉樹の乾燥技術は進んでいますが、家具などに使われる広葉樹の乾燥技術はあまりノウハウが公開されていないそうです。

文責:渡邉聡夫(クリエーター科 木工専攻1年)