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2020年02月23日(日)

「空間を感じる」内藤廣建築(建築見学ツアーin高知)

この度我々木造建築専攻1,2年生総勢7名+教員2名で高知林業大学校での合同授業に合わせて建築見学ツアーin高知を敢行!高知といえば、温暖な気候に美味しい海・山の幸と観光地としても見どころ満載の土地ですが、素晴らしい建築も多いのです。

 

今回多くの建築物を見ることができましたが、私からは内藤廣氏設計の建築についてご報告します。

 

牧野富太郎植物園

牧野富太郎

写真は日本の植物学の父と言われる牧野富太郎氏。その功績により日本各地に関連施設がありますが、ここ高知の植物園は1999年に開館しています。

 

感想としては「カッコよくて、居心地が良い植物園」と、、、アカデミーに来る前であればそれで終わっていたと思うんですが、建築を学ぶ者としては、やはり自分がそう感じる理由の正体を説明できなければいけません。(展示も良いですが、今回説明は割愛)

 

光の扱い方

訪れた当日は雨の降る曇り空。光の量は少ないはずなのに、部屋の中が暗くなっているためか外の明るさと緑が際立ちます。もちろん展示物はきちんと見えるように絶妙に調整がされています。

牧野植物園

一般住宅では部屋の中にいかにして明るさ、日射を取り込むかが話題になる多いように思います。しかしながら、少しぐらい暗い空間でも、必要なところにやさしい光が落ちる空間というのは落ち着いていて過ごしやすいように思えます。

 

これは住宅設計でいう北庭の贅沢さに通じるものがあるのでしょうか。北庭の美しさには何人かの講師の方も言及されていたことを思い出します。素人考えではついつい南に開口部を設け、庭を作りたくなりますが、眺めるという観点から言えば光を受けられる庭にも異なる価値があるということなのでしょう。

 

安心をもたらす軒高設計

屋内には大空間が広がるものの、外との境界部分は一般住宅の天井高くらいの低さ(2.4mくらい)。高さを抑えているのは風を受けないようになど、環境上の要因もあるようですが、低く横に広がる空間というのは高層建築のような圧迫感がなく景観へも溶け込み易くなる気がします。

牧野植物園2

そして境界を区切りながらも内と外との繋がりを感じることができる空間設計。何となく外に行って中に入ってと、展示と外の植物を何の気なしに行き来できるのは快適です。

 

 

大きな集成材の構造

大きな集成材の梁を金物で緊結しています。説明員の方によれば、屋根の流線形を作り出すため、大きな梁一本一本の長さはそれぞれ異なるようです。

牧野植物園3

アカデミーの自力建設でも大きなサイズの部材加工に苦しめられましたが、それを超えるサイズでしかも寸法が違う作業など、想像を絶する作業です。しかもこれが建築されたのが1999年。おそらく今ほど中大規模の木造建築についての知見はなかったはず、、、当時の苦労がしのばれます。

牧野植物園4

 

高知駅舎

高知駅

なかなか日本らしくない建物です。ヨーロッパの主要駅にあるような大屋根構造。

こちらも内藤廣氏設計ではありますが、当たり前ながら植物園とはだいぶ趣が異なります。特に木造耐火の実現のために、手に触れるところには基本的に木は使っていません。それでもこの大屋根が木造アーチとなっているため、駅ホームに立つと木の風合いを遠目に感じることができます。

高知駅2

駅北口エントランス部分にはご覧のコンクリートの柱がお出迎え。かなりの重厚感、迫力です。これは木材には出せない空気感。

内部には大空間が広がっていて開放感があります。半円というシンプルな形状の中に立ち並ぶ鉄骨の梁?柱?に、電車・レールという無機質な存在のマッチングする光景からは近未来的な印象を受けます。それでもそれが行き過ぎないのは木の存在があるからでしょうか。

またこの大屋根スタイルだと、強い雨の時でも中まで雨が吹き込み難いのは良いですね。駅のような明確に機能を持つ建物の時は、まずはきちんと使いやすさを実現することが重要な気がします。

高知駅3

ちなみに法律の問題はあるでしょうが、木を前面に押し出したらどのようになるかは気になるところです。駅というあまり面白くない場所を(少なくとも私には)居心地のよい空間にするのに、木という素材はかなり有用なのではと思った次第です。

 

最後に

普段は木造建築の住宅を主に学んでいますが、今回コンクリートの見え方・使い方について学び、考える良い機会になりました。

木材についても、集成材などを見る機会が多くあり、使いどころによっては意匠的にもかなり良いということが発見でした。それで性能評価としては無垢材に勝る場面もあるのであれば、特徴を理解して使うのは選択肢の一つになります。

住宅規模の木造建築だと単に無垢の材の雰囲気が良いから、自然素材だからという理由で選ばれる場合もあると思いますが、木だけで建築を完成させることができない以上、集成材でもコンクリートでも適所に素材を使い分けることが重要なのだと改めて思います。

木だけでなく、他の材料の特性も理解し活用できると、木造建築はもっと面白くなる気がします。精進します。

 

 

木造建築専攻 下田