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2020年09月01日(火)

令和元年度 課題研究(著:森本 豊茂)が [森林のたより 9月号 No.804] に掲載されました

令和元年度 課題研究 『耐震化促進に向けての取り組み ―複数地震を考慮した耐震性の見える化―』(著:森本 豊茂)が、公益社団法人 岐阜県山林協会 さんが発行している [森林のたより 9月号 No.804]・シリーズ「森林文化の研究と実践2」に掲載されました。冊子は岐阜県内の関係各所で配布されていますし、岐阜県山林協会さんのホームページでデジタルデータを見ることができます。

 

公益社団法人 岐阜県山林協会 さんのURL

http://www.g-forestry.or.jp/

 

毎年アカデミーの学生みなさんがとりまとめる課題研究の冊子は、自立する(学生も自立するためのものですし、冊子も自立します)ぐらい一生懸命取り組まれて作成されています。

課題研究の概要については、前述の山林協会さんのホームページなどで御覧いただけましたら幸いです。ここでは、課題研究の主査講評で記述したこの課題研究に対する講評を以下に示します。

 

――――――――――以下、2019年度 課題研究 主査講評 より。

本研究は、森林文化アカデミー入学以前に森本さんが活動していた三重県などでの防災士などの活動の際に生じた、森本さん自身が見出した疑問が発端となっていて、かつ卒業後の進路(工務店・木造の構造設計担当への就職)を視野に入れた内容となっている研究である。現在の既存建築物の耐震化が緩慢としている状況に着目し、その問題点を整理し、「複数地震を考慮した耐震性の見える化」に取り組んでいる。

 

2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による東日本大震災では、複数地震による建物の被災が報告されている。また、2016年(平成28年)4月14日に前震、4月16日に本震が発生した熊本地震でも複数地震による建物の被災が報告されている。その一方で、これらの地震に対して幸いなことに目立った損傷のない建物も多く存在するが、果たしてこの大地震により罹災した木造住宅の耐震性能がどのようになっているのか解明したいということを、森本さんは感じたようである。

 

このように大地震により罹災した木造住宅の耐震性能を検証する手法として、中川貴文氏(京都大学 生存圏研究所 生活圏構造機能分野 准教授)が開発した「Wall stat」を用いて、立体構造モデルにおける時刻歴応答計算を試みた。この「Wall stat」は、東京大学をはじめ、独立行政法人 建築研究所や国土交通省 国土技術政策総合研究所にて、実大の振動実験結果との検証がなされてきたソフトウェアであり、木質構造を専門とする多くの研究者・技術者の方々が研究や技術開発などで利用している。「Wall stat」を使うことにより、パソコン上で木造住宅の数値解析モデルを作成し、振動台実験のように地震動を与え、 最先端の計算理論に基づいたシミュレーションを行うことで、変形の大きさ、損傷状況、倒壊の有無を視覚的に確認することが可能となる。さらに、「Wall stat」はフリーに利用できるため、実務者の方々にも導入コストがかからず利用することが可能であるというメリットもある。

 

課題研究での主な内容は、住まい手、建築実務者、自治体に対して耐震診断・耐震補強・木造住宅の耐震性能などのヒアリングをおこない、モデル住宅6棟について「Wall stat」を用いた解析的検証を通じて耐震性の見える化ツールを製作した。そのツールを用いてもちいて自治体へ啓発の提言を実施した。自治体からの高評価も戴いており、これまでにはない、新しいことを提案できている点は非常に評価できる。

 

また、これらの研究成果を実務者の方々にも報告を実施した。住まい手に対する建物の耐震性能の重要性を伝えるツールとしても有効性である旨、参加した多くの実務者の方々から賞賛されている点も評価できる。

 

さらに、森本さんが実施したが、本課題研究の中に研究のストーリー上、メインとして盛り込むことをしなかったこととして、

 

①             【論文発表予定】Morimoto、Kohara、etc: 「Analytical Study on the Effect of Visco-Elastic Structural Control Dampers on Multiple Earthquakes」World Conference on Timber Engineering (WCTE 2020)、チリ・サンティアゴ、2020年8月

②             「美濃市シェアハウスの構造調査」2019年

③             「韓国における岐阜県産材仕様の木造住宅の構造性能の検証」2019年~2020年

④             「木造軸組構法における制振ダンパーの効果について」2019年~2020年

⑤             「加子母森林組合 組立和室(茶室)の振動解析」2019年~2020年

⑥             「韓国への県産材輸出促進のための木造建築性能設計技術について」2019年~2019年

⑦             「ライン工業・岐阜県産ヒノキ製材を利用した木造ラーメンの開発:囲柱ラーメン木構造のせん断加力実験」埼玉県、2020年

 

などがある。ドイツのロッテンブルク大学・デデリッヒ教授との共著の論文1編(2020年8月発表予定)を含めて、これら各々についても充分に課題研究となりうるボリュームのある取り組みを実施してきたと評価できる。

 

また、森本さんは下記を受賞している(課題研究・プロジェクト等での受賞含む)。

 

①             【優秀賞】「自力建設【森のいちだんらく】」第18回ぎふ建築・生活・芸術系学生・生徒 優秀作品展、日本建築学会東海支部岐阜支所長、2014年6月

②             【表彰】「シミュレーションによる韓国住宅へ設置した制震ダンパーの有効性」:社団法人 韓国木造建築協会・会長、2020年1月

③             令和元年度建築関係学科卒業生表彰:公益財団法人 岐阜県建築士会・会長、2020年3月

 

構造系として研究を実施するにあたり、①構造調査、②構造計算、③構造解析、④構造実験・開発、⑤論文発表(国内外)、⑥展示等発表(国内外) などの手法がある。アカデミー在学中および課題研究にて、これらの手法うち、以下の6点を実施・確認・検討できている点は非常に評価できる。

 

①             構造調査(プロジェクト:美濃市シェアハウスの構造調査 ほか)

②             構造計算(プロジェクト:加子母森林組合 組立和室(茶室)の構造検討と振動解析 ほか)

③             構造解析(プロジェクト:韓国における岐阜県産材仕様の木造住宅の構造性能の検証、木造軸組構法における制振ダンパーの効果について ほか)

④             構造実験・開発(プロジェクト:ライン工業「囲柱ラーメン木構造」のせん断加力実験、韓国への県産材輸出促進のための木造建築性能設計技術 ほか)

⑤             論文発表(国内外:WCTE2020・チリ)

⑥             展示等発表(国内外:クラシド2018・岐阜市、クラシド2019・岐阜市、建築総合展in名古屋2019・名古屋市、おおの町木育フェア2018・大野町、おおの町木育フェア2019・大野町、中津川市山の日2019・中津川市、森林文化アカデミー専門技術者研修「木造建築の許容応力度計算演習」での発表、「韓国木造建築協会」での発表 ほか)

 

最後に、構造は建築の一要素でしかないことを理解している森本さんには、今後更なる「構造」・「構法」・「意匠」・「施工」・「材料」+αの有機的融合を実施して、いろいろな建築的事項の検証へと、是非繋げていってもらいたい。

 

 

課題研究主査: 教授  小原 勝彦

――――――――――以上、ここまで 2019年度 課題研究 主査講評。

 

教授  小原 勝彦