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2021年04月13日(火)

変わる木工家の役割 「樹の一脚展 〜人の営みと森の再生〜」の開催を通じて

「この椅子展は、これから木工家が地域材を使っていくという決意表明だよね」
 2月5日から3月末まで、竹中工務店東京本店のギャラリーエークワッドで「樹の一脚展」という椅子展が開かれました。地域材の利用に取り組む埼玉県の三富地域(川越市、所沢市、狭山市、ふじみ野市、三芳町にまたがる地域)と神戸市の六甲山の樹を使い、木工家30組が1脚ずつ椅子を作るというものです。用いた樹種は、ヤマザクラ、コナラ、ハンノキ、ヤシャブシ、クマシデ、ホオノキ、アオハダ、ムクノキなど。実行委員会で出展者の一人が語ったのが、決意表明という言葉でした。

樹の一脚展会場①

樹の一脚展会場 中央手前から2脚目が筆者の椅子 (撮影:光齋昇馬)

 木工家たちはこの数十年、主に外国から輸入された広葉樹を使ってきました。かつては国産材を使っていましたが、大径木が枯渇し始めると同時に、北米からチェリーやウォールナット、ロシアからオーク、ヨーロッパからビーチなど、幅が広く均質で使いやすい材が入るようになり、そちらへ流れてしまったのです。

 一方、全国各地では森の荒廃が叫ばれ、倒木や獣害などにより人々の暮らしに影響が及び始めました。都会でも、街路樹や団地に植えられた樹木が育ちすぎて伐採され、産業廃棄物として捨てられる事例が増えてきました。こうした問題に取り組む人々から、地域の木工家に協力を求める声がかかり始めたのです。

 埼玉県の三富地域では、落ち葉で堆肥を作る江戸時代からの伝統農業を守るため、森の手入れで伐った樹を木工家たちが小物や家具に活かす取り組みを10年以上続けています。神戸市では民間団体や木工家たちと共同で、防災工事や街路樹剪定で出た樹を家具や内装に活用する取り組みが行われています。今回の企画展では、その2地域の活動を紹介する展示もありました。

樹の一脚展 エントランス

樹の一脚展エントランス (撮影:光齋昇馬)

 こうした樹木は、決して木工に使いやすいものではありません。細すぎたり、曲がっていたり、節が多かったり、虫食いや腐朽があったりして、歩留まりが悪くコストがかさみます。しかしそれらの木の癖を読み、小物や家具に活かすとともに、それらの樹が育った森のことやそれを使う意義をユーザーに語れるのは木工家なのです。その役割を感じ始めたからこそ、冒頭の決意表明という言葉が出たのでした。

 私も30組の木工家の一員として椅子を作りました。三富地域で育った直径12センチのアオハダとムクノキを使い、その樹が森で生き生きと育つ姿を表現したいと樹皮つきで仕上げた一脚です。

アオハダとムクノキの椅子

アオハダとムクノキの椅子(久津輪 雅・作) 撮影:光齋昇馬

 この椅子展では会場に削り馬(木を削る道具)を並べ、来場者に生木を削ってもらうグリーンウッドワークの体験も企画されました。これは森林文化アカデミーが普及に務めてきたもので、ぜひ来場者に木を削る楽しさを味わってほしいと採用されたものです。物を作るだけではなく、こうした体験を提供することも木工家の新しい役割になりつつあります。

神戸市で行われた「樹を削る」イベントの様子

2019年に神戸市で行われたグリーンウッドワークのイベント「樹を削る」。 「樹の一脚展」開催のきっかけとなった。

 地域材の利用は、小さなコミュニティの中に林業・製材・乾燥・製作に携わる人々がいることが必要です。そんなグループが各地に生まれ、連携していくことも求められます。実行委員の木工家たちは、今回の企画展がそのきっかけになればと願っています。

樹の一脚展特設サイト
(実行委員会が情報発信のために自ら立ち上げたウェブサイトです)

久津輪 雅(木工・教授)

(本文は岐阜県山林協会発行「森林のたより」2021年4月号より抜粋したものです)