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2024年03月22日(金)

現代の御師(おし)から学ぶ(ローカルビジネス3<現場から学ぶ>)

<2023.10.27> 森林環境教育専攻の「ローカルビジネス3<現場から学ぶ>」実施しました。

第1回目の現場は郡上市。講師は、一般社団法人長良川カンパニーの代表、岡野春樹さんです。

岡野さんは、大手広告代理店で郡上市の移住促進事業「郡上カンパニー」にディレターとして関わったことをきっかけに、家族で郡上に移住。現在は自ら立ち上げた2つの一般社団法人の代表を努めます。

訪問したのは、事務所がある郡上市大和町。「古今伝授の里フィールドミュージアム」がある場所で、明建神社へと続く美しい参道があります。

岡野さんは、2020年に設立した「長良川カンパニー」では今、郡上で源流の森の保全活動に取り組んでいます。

きっかけは、岡野さんが郡上を訪れ、美しい川であそぶ中で、
「将来もこの川を守りたい」と思ったことです。

環境保護は多くの人が抱く思いです。
しかし、保全活動には人もお金も必要。それを実現するのか・・・。

人とお金を源流の保全活動につなぐために、岡野さんはビジネス手法でアプローチします。
そのひとつが、源流の森での企業向け研修プログラムです。
「創造性回復」というテーマが掲げられた企業研修を、年間約200名に提供しているそうです。

「源流域に人を連れていく、大事なことを話す。”現代の御師”なんです」

「現代の御師」岡野春樹さん

「御師(おし)」とは、郡上ではかつて白山信仰を広めた人々で、御師の里と呼ばれる石徹白(いとしろ)では修験者の宿坊も営んでいました。御師の里は、最盛期には「上り千人、下り千人、宿に千人」といわれるほど賑わっていたそうです。

「御師は、日本の観光ブームの影の仕掛け人だったともいえます。人とお金、そして文化、情報を地域に持ってくる人で、かきまぜ役です」

「現代の御師は、法人を相手にしないといけない」と岡野さん。個人向けの観光コンテンツではなく、社員研修として法人へのプログラム提供を行います。法人向けだと、個人向けより販売額が大きくできます。社員の研修として企業に支出してもらうためには、源流や森の中で行う研修の効果を示す必要もあり、専門家と共に研究してきちんとエビデンスを提供されているとのことです。

さらに岡野さんは、かつての御師の暮らし方が現代にマッチするのでは、と説明します。

「御師の暮らしは、春には暮らしに精を出し、夏には旅人を誘う。秋にはまた暮らしに精を出し、冬には全国を旅して営業していました。現代の人が持つ、定住欲求と放浪欲求の、どちらも叶える暮らし方ではないでしょうか」

 

 

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お昼をはさんで、奥様の早登美(さとみ)さんが取り組む、堆肥づくりのお話を伺いました。
家庭から出る生ゴミを、複数の家庭で共同で完熟堆肥にする「コミュニティ・コンポスト」の活動です。
堆肥は畑に還元でき、土壌を豊かにしながら、肥料の削減にもつながります。

ゴミを減らし、生ゴミから土をつくることは、源流で川を守ることにもつながります。

岡野早登美さん(写真右)

 

「自分ができることはなんだろう、というところからつながったのが完熟堆肥づくりでした」

早登美さんは、堆肥づくりを通して子育て世代のお母さんや、地域の人々、事業者などとのつながりが生まれたと言います。
そして、郡上の小学校では堆肥づくりを授業に取り入れます。東京で小学校の教員だった早登美さんは、授業プログラムも担います。

「授業で、自分が楽しいと思っていることを伝えられるのが、楽しいです」

春樹さんは、事業を考えるときに3層で考えることが重要だと教えてくれました。
・ヒューマンスケール(自分でできる範囲)
・コミュニティスケール(仲間、コミュニティでできる規模のもの)
・システムスケール(社会の仕組みで行う規模のもの)

早登美さんのお話から、ヒューマンスケールからコミュニティスケールへと成長する姿がうかがえます。
堆肥づくりに必要な壁土も、はじめは山で土を掘っていた大変な作業だったそうですが、活動の広がりで、家の解体業者とつながったそうです。古民家を壊すときに出る壁土の処分にコストがかかっていた業者とつながることで、双方にメリットが生まれました。

家庭から集められた1次処理のコンポスト

 

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1日の最後に、岡野さんが再生に着手した、皆伐跡地を案内してくださいました。

「源流の森に通っていると、変化に気づきます。森が傷んできているのが分かるんです」

岡野さんは、郡上に住んで、そして長良川カンパニーの事業を通して、環境の変化にどんどん気づくようになっていったといいます。

「散々お世話になっている森に、自分たちができることはなんだろう?」

源流の守り方について、大企業の研究者にも訊ねたそうです。
しかし、現代の科学では源流の守り方は分からなかったのです。

「水をどう守るか。自分たちの実感に基づいて、少しずつアップデートするしかない」

岡野さんは、企業研修に隣接する皆伐跡地で、森の再生に着手しはじめました。「現代の御師」として、様々な専門家を「あそび」で誘い、源流の森に連れていきます。そこでは、あそびながら、参加者に森の調査もしてもらいます。

 

 

「孫の世代には、自分たちが遊んだ森が無くなるのではないか」

水を生み出す森を再生するために、目に見えない「土中環境」にも着目します。
森は土の中の環境、水と空気でつながっているーーそんな「土中環境」に着目して環境改善にアプローチする高田宏臣氏の指導の下、リサーチと作業が行われました。

そして2023年秋には「源流遊行祭」が開催されます。岡野さんたちの活動に共感した企業の協賛を得て「源流遊行祭」は開催されました。

「源流の森を企業と一緒に守っていくのが、大きな仕事になっている」

現代の御師からは、森と人をつないで、人も森も再生するという新たな希望が見える気がします。

水を生み出す源流の森

最後に、山の上で法螺(ほら)貝を吹いて、1日は終了しました。

岡野さん、早登美さん、貴重な学びの時間をありがとうございました。

学生も法螺貝を吹いてみる

 

この日は触れられませんでしたが、岡野さんの活動は大手企業が取り組む「キノマチプロジェクト」や、循環型のまちづくりを手掛ける会社のディレクターなど、多岐にわたります。また、長良川カンパニーは郡上市企業版ふるさと納税のマッチング支援業務もおこなっています。

自分ごととして取り組む、それをプロジェクト化、事業化するーーそのために様々な人や企業をつなげる。プロジェクト実施のために資金化することも含めて実現させる人が、これからの森や地域、全国で求められていく、そう実感させられた1日でした。

「ローカルビジネスとは?」を探るこの科目。岐阜県内の様々な方と一緒に考えていきます。

(森林環境教育専攻 小林(こばけん))