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2024年01月11日(木)

山村の資源を捉える視点(山村資源利用演習)

<2023.11.6-7>エンジニア科2年・林産業コースの選択科目「山村資源利用演習」の続きです。

高山市のオークヴィレッジさんを後にして、飛騨市神岡町・山之村に向かいます。
ここで、アカデミー卒業生で「わらび粉職人」の前原融さんにわらび粉づくりの実習をさせていただきます。

まずはワラビの採取。ワラビは根を掘ります。

かつては糊の原料として盛んだった山之村のワラビ栽培ですが、時代の変化で廃れてしまいました。
前原さんは放置された土地を借り、ワラビ畑として6年にわたり整備してきました。

雑草が生い茂る土地を切り開き、ワラビを育てるために「火入れ」も行います。

「山之村では、今の90歳代までは、火入れをしていたそうです」

火入れは、ワラビだけが生えるように地表の草を焼く作業です。
ワラビも一緒に燃えてしまうのでは・・・と思うのですが、火が入るのは地表から深さ5センチくらいまでで、ワラビの根は深さが10センチ以上なので、生き残るから大丈夫とのことでした。

地元の消防団にも入っている前原さんは、火入れの際には届けを出し、消化道具も用意します。
消防団の仲間にも声をかけて、周囲を見守りつつ、慎重に火入れをします。

この日は不安定な天候で本格的な火入れは中止となりましたが、貴重な体験をさせていただきました。

根を掘ったワラビは、土をきれいに洗い、叩いて繊維をくだき、水を入れてでんぷん質を分離させ、濾すことを繰り返して固まった、白くて良い部分を抽出します。この工程で3日ほどかかります。

なお、採取したワラビから取れる「わらび粉」は、わずか5パーセントしかないそうです。
前原さんがつくるわらび粉は、年間約5kg。そのためには100kgのワラビが必要です。
しかも、ワラビを掘れるのは雪が降る前の秋の短い間です。そして、掘ったワラビはすぐに作業をしないとダメになってしまうのだそうです。

どのくらい手間と時間がかかるのか・・・。しかもタイミングを逸しないためには、日々の作業が必要。
「本物のわらび粉をつくる」という前原さんの情熱は、自分たちの想像を遥かに超えたところにあります。

 


 

本わらび粉の味に惚れ、わらび粉職人になった前原さん。
”わらび粉をつくるために”、他のしごともしています。

春、夏は農家のお手伝いや、田んぼの草刈りを請け負います。
冬は、除雪や雪下ろしの作業をこなします。

秋はわらび粉生産に追われる中、栃の実の生産もしています。
これは、もともと山之村にあった事業を前原さんが引き継いだもの。
地域のおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に生産を行います。

今年は300kgの実を集めました。
トチノキには生り年があるそうで、多く採れたときは保管をしておくそうです。

集めた実は、アクを抜き、手で皮を剥いていきます。アク取りには木の灰が必要で、薪をつかっている家にとっておいてもらって集めるそうです。
ここから、薪を使う地域の文化、薪を調達する山と人の暮らし、提供してもらうための人のつながりなど、様々な山村の文化、そして豊かな山の資源もみえてきます。

多くの手間を経てつくられる山之村の栃の実は、香りが良いと評判がよいそうです。
しかし、生産者はつくって出荷するだけで、その評判の実感がありませんでした。

そこで前原さんは今年はじめて、おばあちゃん達といっしょに栃の実が使われている現場を訪ねる”研修”を行いました。山之村の栃の実を使っている菓子製造に行き、使っている方から、直接お話を聞いたおばあちゃんたちはとても喜んでいたそうです。

研修では温泉で有名な下呂にも行き、栃の実をつかったスイーツも食べてきました。外に出て見たり聞いたり食べたりしたことで、自分たちがつくっているものの実感にもつながったようだった、と前原さんは振り返っていました。

自然と人、人と人、外と中、そして昔と今をつなぐ前原さん。
前原さんの生き方、そしてあり方には、山村の様々な資源を捉えるヒントが詰まっていました。

そんな前原さんは今、わらび粉づくりと並行して、春に採るわらび用の畑も整備予定とのこと。

「わらびが好きなので、一面をワラビ畑にしたいです」と笑う前原さん。

様々な資源をつないで、暮らしと風景をつくる――。
毎年変化していく山之村と前原さんの姿に、今後も注目していきたいです。

森林環境教育専攻 小林謙一(こばけん)