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2023年05月25日(木)

バウビオロギー研究所(木造建築ドイツ研修記1)

5月前半に私(辻)と学生2名、小原教授の4人で木造建築のドイツ研修に行ってきました。

その中でも特に印象に残っているのが、バイエルン州ローゼンハイムにあるバウビオロギー研究所です。

バウビオロギーとは、ドイツ語で、建築(Bau)+生命(Bio)+論理(Logos)で建築生物学と訳しています。人を中心とした健康や環境に配慮した住まいづくりを目指すうえで重要となる考え方です。

私自身もこの考え方に共感し、バウビオロギーを学んできました。(バウビオローゲという資格も取得しています)
渡独にあたり、ぜひバウビオロギー研究所に伺いたいと考えていました。
以前お会いした所長のヴィンフリートさんに連絡を取ると快くOKのお返事。

バウビオロギー研究所は住宅地の一角にあり、大きな樹の向こうに有機的なガラスでできた曲線の建物が目に入ります。

中に入ると、開放的なホールに階段が設置され、1階の広間と2階のオフィスをつなげる空間です。
木の自然な色合いと赤い壁のコントラストがいい感じです。バウビオロギーでは色彩も大切にしています。

実はこの建物、もともとこの場所に建っていた平屋建てRC造のスーパーマーケット(1955年築)の改修物件とのこと。
その建物に木造の2階とエントランスのガラスのホールを増築して、今の形(2014年)になっていました。

改修にあたっては、バウビオロギー25の指針に則り、素材を吟味し、室内環境や造形を大切にした空間づくりがなされていました。
1階の広間で、さまざまな素材サンプルを手に、人が過ごすために最適な環境を実現するさまざまな工夫を聞くことが出来ました。

断熱性能はウッドファイバーを主に用いたパッシブハウス性能の高断熱仕様。開口部も木製のトリプルガラスで外部ブラインドも設置されています。
暖房に関しては、1階は床暖房、2階は壁暖房です。基本的に放射式の暖房機器で、空気を舞い上げない暖房です。しかも設備の姿が見えません。
3種類の換気設備を試しており、一部は湿度のコントロールも行える仕組みが導入されています。
照明も光のスペクトルの違いや強度の変化が見れるように、さまざまなタイプの光源が試されています。
雨水利用の中水を使ったトイレも印象的です。
配線からは電磁波を遮る導電性のシートでアースがとられ、無線LANは使わず有線でネットワークを構築している徹底ぶり。
当然、仕上げの塗料から壁の中に隠れてしまう断熱材まで、使用されている素材も自然由来のものがほとんどで、空気感が心地よかったです。

木造で増築された2階のオフィスは、見晴らしがよく気持ちのよい空間です。ウッドスプリングを用いた木製のオフィスチェアもありました。

ここで10名のスタッフが働いています。バウビオロギー研究所は全世界に90の支所があり、日本にも前橋工科大(石川研究室)に拠点があります。

各地の特徴を活かした活動や教育を行っています。

環境コントロールの心臓部の機械室も見せていただきました。暖房の熱源はペレットが使われています。
太陽光発電で作った電気で自動車に充電できる仕組みもありました。

人と環境に配慮したさまざまな取り組みはとても参考になりました。バウビオロギーの理念を体現したデザインや素材にもこだわった居心地の良い建物でした。

今回の訪問は早速、バウビオロギーのニュースレターにも取り上げていただきました。

同じ日に、フラウンホーファー建築物理研究所(IBP)も特別に見せていただくことができました。
フラウンホーファーIBPは、ドイツの応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構の中の建築物理に特化した研究所です。

以前から、この研究所で開発された防露計算を非定常で行えるWUFIを使用していたこともあり、一度は伺ってみたい施設でした。

WUFIは熱と湿気を同時に計算でき非常に精度が高い計算ツールです。
訪問してみると、この精度の高さがどこから生まれているのかわかりました。

単に理論的な計算だけでなく、広大な敷地の中にたくさんの試験体や、壁や屋根の試験小屋が置かれています。
1950年頃から地道な実測とシミュレーションを繰り返して客観的な評価を行っていました。

外壁の暴露試験では、外部と内部に計測器を設置して、地道な計測が続けられています。
壁の各パーツを取り外して別の試験体が挿入される仕組みも面白いです。

また、方位や勾配を変化できる実験室もあり、さまざまな実証試験が行われていました。

タイプの異なる2つの研究所を訪問しましたが、共通しているのは、中立的で信頼のおける情報を伝えようとしていること。
密度の濃いドイツ研修の中でも、誠実な姿勢に感銘を受けた特に記憶に残る貴重な体験でした。

教授 辻充孝