アカデミー教員インタビュー

線虫と魚とカエルと、森のきのこ。

津田 格(林業専攻)

 

アカデミーできのこや菌類と言えば津田先生。一緒に森を歩くと、きのこや生き物のふかーい世界にどんどん引き込まれていきます。でも、もともとはきのこの専門家ではなかった?生き物大好き少年だった津田先生が、どのように進路を選び、いまの仕事へとたどりついたのか、じっくり聞いてみました!

 

今もむかしも、生き物がすき!

——津田先生はどんな少年だったんですか?

津田:ぼくは大阪出身で、両親は淡路島の出身だったので、子どもの頃からよく淡路島に通っていました。淡路島は田舎だから、海もあるし山もある。だから祖母が生きていた頃は、いわゆる里山によく連れて行ってもらいました。春は山菜やワラビを採りに行ったり、あとは潮干狩りに行ったり。幼少の頃の自然体験は、淡路島がメインですね。住んでいたのは大阪の街中なので、田んぼもほとんどなく、畑もポツンポツンと残っていたくらいで、ほぼ住宅でした。近くに大きな公園があって、当時は草っぱらが残っていたり、池があったり、そういうところでよく遊んでいましたね。あとは、生き物が好きで、昆虫とカメと魚を飼っていました。昆虫を飼うのはそんなにうまくなかったんだけど、クサガメは10年くらい飼っていたかな。でも犬とか猫とか大型の哺乳類は興味がなくて、むしろ犬は怖かった。植物も当時はそんなに興味なかったかな。あと、中学生のときは淡路島で海水魚を網ですくって家で飼っていましたね。クロダイの小さいのとかで、きれいな魚じゃないんですけど。今も同じようなことをやっているので、全然変わってないですね(笑)。

 

 

——今も魚を飼っているんですか?

津田:飼ってますよ。高校生くらいからしばらく飼ってなかったんですけど、結婚して子どもが生まれて、子どもがお祭りで金魚すくってきたんです。最初は金魚だけでいいやって思っていたんですけど、水槽を置くと入れたくなってしまうんですよ。近所の魚とかを採ってきて水槽に入れ始めると、もうちょっと飼いたいなって、だんだん水槽の数が増えていきました。あとはアマガエルがいますね。カエルはかわいいよ!うちの子どもがおたまじゃくしを捕まえてきて、カエルになってそのまま7年間飼い続けています。

 

 

津田:高校のときは、ワンダーフォーゲル部に入っていました。ぼくのいた高校は、登山部もあって、そこはバリバリ山を登っていたんですけど、ワンダーフォーゲル部は、その場所の文化的なことや歴史的なことを事前に学習して、実際に見て歩くということをやっていた部活動だったんです。普段は、計画を立てたり、事前に調べたり、自分たちで冊子を作ったり、ただ単にしゃべっていたりしたんですけど、月に一回、土曜日か日曜日に活動日があって、大阪、奈良、京都、兵庫あたりの日帰りで行けるところをまわっていました。当日は事前に作った冊子を持って、ポイントポイントを歩いていくみたいなかんじでしたね。そのときに、歴史的なことや文化的なことだけじゃなくて、自然も含めて、「見て歩く」のはすごく楽しいなと思いました。行った先での目的ってひとつだけじゃないなって、そういう経験を通して身に付いたところはありますね。

 

 

かくして、津田青年はきのこと出会った。

——大学は農学部を選んだ理由はなんですか?

津田:もともとは昆虫の生態や生き物のことを学びたくて農学部にしました。ぼくがいた大学は、きのことか昆虫とかを扱っている学科があって、そこがいいかなと思って。生き物の研究がやりたくて大学に入ったことは間違いないです。幼少期からの生き物好きがそこにつながっていますね。それで、その学科の中にいくつか研究室があったんです。植物病理学、遺伝学、応用植物、あと昆虫。植物病理学と昆虫は人気なので、いっぱいライバルがいる。昆虫も興味があったんですけど、昆虫好きな人って本当にむちゃくちゃ知っているんですよ。ちょっと太刀打ちできないな…こんな人たちと一緒にやっていくのは無理だな…ってその当時は思ったんです。今ではすっかりぼくもオタクなんですが(笑)。研究室は3年生の終わりくらいに決めるんですけど、それまでにそれぞれの研究室の授業とか実習があって、それでおもしろそうかなと思って、応用植物という研究室にいきました。

 

キイボカサタケ

 

——きのことの出会いは大学生のときですか?

津田:きのこのことを知ったのは、大学に入ってから。もちろん、きのこという生き物は知っていたけどね。ぼくの入った研究室が、松枯れ(まつがれ)というマツ科の木に発生する感染症や、「菌根菌(きんこんきん)」というきのこの仲間で、生きた樹木と共生している菌類を研究していました。代表的なのはマツタケですね。それで、たまたまぼくが在籍していたときに、きのこに病気をおこす「線虫(せんちゅう)」というのが話題になっていたんです。線虫は、わかりやすいのは人間のお腹の中にいる回虫とか、子どものころに検査を受けるギョウ虫とか。犬に寄生するフィラリアもそうだし、魚に寄生するアニサキスも線虫です。それで、ヒラタケというキノコのひだのところに、こぶができる病気があって、この病気になると見た目が悪くなるから売り物にならないんです。そのこぶの中に線虫がいるんですよ。線虫が病原体なんだろうということはわかっていたんだけど、この線虫の生態がわかってなかったので、それをいろいろ調べはじめたんです。最初はヒラタケのことばかりやっていたんですけど、この線虫ってヒラタケがいないときはどうしてるんやろ?って思ったんですよね。それで、他のきのこに乗り換えているんじゃないかなとかいろいろ調べはじめたんです。きのこがおもしろいというよりも、きのこに寄生する線虫の生態を調べようと思って、きのこも調べはじめたかんじかな。あと、ヒラタケの線虫を調べるために、ヒラタケを栽培しないと研究が進まないので、自分でヒラタケの栽培もしていましたね。ヒラタケは、原木栽培できるきのこの中ではもっとも簡単に栽培できるので、本に書いてあるのを見よう見まねでやっていました。

 

ヒラタケ

 

——津田先生の思う、きのこのおもしろいところはどこですか?

津田:きのこって種類ごとにおもしろさがあると思うんです。例えば、毒きのこっていろんな毒があるじゃないですか。悲惨な事故とかも当然あるんですけど、でも毒の作用の仕方がきのこの種類によって違っていて、こんな毒があるんだ!って図鑑を見るだけでもおもしろい。毒きのこなので、おもしろいって言っていいのかわからないんですけど、でも興味はひきますよね。毒だけじゃなくて、他の生き物との関わりにしてもいろんなきのこがいて、マツタケやトリュフとかは生きた樹木と共生していますし、シイタケとかは木材を腐らせるし、冬虫夏草(とうちゅうかそう)みたいな虫に寄生して殺してしまうみたいなのもあるし、あと、逆に植物に寄生されるきのこっていうのもあるんです。他の生物群と全然違う生き方をしているし、いろんなものがいるし、おもしろい生物だなって思います。名前がついてないのも多いですし、なかなか未知の部分が多い。そう言う意味でも、研究者にとっては研究しがいのあるものかもしれないですね。ぼくはきのこそのものというよりは、きのこを利用する線虫という側面でのきのこなんですけどね。

 

 

——津田先生のイチオシきのこを教えてください!

津田:かたちが好きなのは、おもしろいかたちだとカニノツメとか、カゴのかたちしているカゴタケとか。あとは冬虫夏草の仲間とか。イグチの仲間はかたちとしては好きですね。バランスがいいし、造形的にいいかたちをしてますよね。食べて好きなのは、ヤマドリタケモドキ。イグチの仲間はおいしいのが多いですね。

 

カニノツメ

ヤマドリタケモドキ

 

アカデミーにやってきて、20年。これまでとこれからと。

 

——森林文化アカデミーの先生になられたきっかけはなんですか?

津田:ぼくはアカデミー創立当時からいるんだけど、ちょうど線虫の研究が終わりそうなタイミングで、森林とか林業とかに特化した専門学校ができるって、声をかけてもらったんです。当時は里山研究室というのがあって、その中できのこのことを教えられる人材を探しているってことでこちらに来たのがきっかけですね。アカデミーに来たら研究ばっかりじゃないし、きのこにすんでる線虫のことだけを教える訳にもいかない。もちろん森林の中のいろんな生き物のつながりの一例として教えることはありますが、人が森林を利用するにあたって、どういう知識や視点が役に立つのかなみたいのを考えて教えています。アカデミーに来て、21年目。長いよね。まさかこんなにいるとは思わなかったけど、でも良い学校だよね。

 

津田先生の研究室にある、木のキノコ

 

——アカデミーの良いなあって思うところはどんなところですか?

津田:大学だと卒業したらそれっきりみたいな人もいるけど、ここは卒業後も卒業生がいろんなかたちで関わってくれる。あと、学校内に森林に関わるいろんな分野の人がいて、わからないことがあってもすぐ聞ける。学生もいろんな年齢の人がいて、いろんな経験を積んできた人がいるので、学生同士もだけど、教員と学生の距離も近いし、そういう学校ってあんまりないんじゃないかな。ぼくは今、林業専攻にいますが、その中もそれぞれ専門分野があって、ぼくは林業機械を動かせって言われてもできないし、狩猟せいって言われても狩猟免許も持ってない。でも林業専攻の学生に限ってみても、林業機械は動かせるし、チェーンソーを扱えるし、狩猟ができる子もいるし、林業経営のことも当然学ぶし、樹木の種類や特徴を学ぶのも基本なんだけど、さらに病虫害のこととか、きのこや山菜のことも学んでいるわけだから、すごいよね。すべてマスターしてたらかなり優秀な人材になるんじゃないかな。本当に充実していると思いますね。

 

 

——これからアカデミーへ入学を考えている人や、森に関わる仕事をはじめる人へのメッセージをお願いします!

津田:林業っていうとスギとかヒノキみたいな、家を建てるための材料をとってくる仕事だよねってイメージを持っている人が多いと思うんですけど、森林の資源ってそれだけじゃなくて、きのこもそうだし、山菜とか、あとは広葉樹もいろんなかたちで使われているので、幅広い視点を持って森を見てもらうと、森の価値が見直されてくると思うんです。視野が広がると林業という仕事に対する捉え方も変わってくると思うので、そういう視点を持って学んでほしいですね。あとは、特に最近だと、気候変動とか異常気象の影響で、土砂災害とかも起こっているじゃないですか。そういう被害を防いだり、減らしたりするために、山を適切に管理することが重要だと思います。今後どんなふうに手を加えたら災害が減らせるかとか、もうちょっと利益を生み出せるかとか、管理の仕方で変わってくるので、そういうのも含めて学んでもらえるといいかな。特に災害は、人の暮らしに直結するところだし、人の命に関わってくる部分でもあるので、自分たちのやることがそういうところにつながっているんだって意識はすごい大事かなって思うんです。あと、ぼくとしては生き物のことに興味を持ってくれる人がもっと育ってほしいですね。林業にしても何にしても自然環境あってこその産業なので、そこをある程度配慮できる、里山保全にも関わってもらえるような。林業をやりながら生き物のことに配慮できる人が育ってほしいなと思っています。

 

インタビュアー 杉山優真(森と木のクリエーター科 木造建築専攻)