【アニュアルレポート2024】多分野連携による木育プログラム 森学び・アートワークショップ
森林文化アカデミーでは、教員の研究成果を『アニュアルレポート』という形(冊子)にまとめて年に1度発信しています。ここではオンライン記事として再編集した、私が携わった木育プログラムの実践レポートをご紹介します。
多分野連携による木育プログラム
森学び・アートワークショップ
木工専攻 准教授 前野 健
目的
2025年4月23日~6月15日にかけて、岐阜県内各地の公園を会場に、第42回全国都市緑化ぎふフェアが開催される。『「清流の国ぎふ」から広げる 自然と共生した暮らし』をテーマに掲げるこのイベントに先駆け、2024年度には会場になる公園でPRのためのプレイベントが行われた。ここで紹介する「森学び・アートワークショップ」も、プレイベントの1つとして、県の都市公園課 都市緑化フェア推進室(以下、推進室)から私のもとに企画・運営の依頼が来たものである。
もとより、私はアカデミーの卒業生と協働で、岐阜県百年公園の森をフィールドにした「おとなと子どもの里山ナイフ教室」(以下、里山ナイフ教室)という生涯学習講座を2022年6月から、冬季を除き継続的に開催している。依頼を受けたプレイベントのワークショップを、そのまま普段の里山ナイフ教室の中に入れ込む形で実施することも可能であったが、この機会に、より公園林の魅力を強く発信できないかと考えた。その方法が、多分野の専門化による連携である。岐阜県百年公園の公園林を活用し、森について体験的に学ぶ市民参加型のワークショップを、多分野のプレイヤーと連携して開催した。
概要
推進室からの依頼を受け、岐阜県百年公園の公園林をフィールドにした『森学び・アートワークショップ』の計画を行った。ワークショップの前半は、公園林のフィールドガイドと里山整備の作業を体験してもらいながら、森の役割について学ぶ内容とした。後半は里山整備の作業の際に参加者が間伐した枝木を材料に使い、クラフトワークショップを行い、作品作りを楽しんでもらう内容とした。
ワークショップは午前10時~15時の時間枠で開催し、午前の2時間を森学びのパート。1時間の昼休憩を挟み、午後の2時間をクラフトのパートとし、参加人数20名で募集を行った。
森学びのパートは森林文化アカデミー(以下、アカデミー)のクリエーター科林業専攻2年生の2人が担当して、プログラムの準備を進めた。事前に岐阜県百年公園内にある特徴的な自然物や、フィールドガイドのノウハウを学ぶために、岐阜県博物館で植物を担当される学芸員の松久聖子氏と、動物を担当される学芸員の説田健一氏に公園内のガイドコースを案内して頂く機会を設けた。学生2人は、アカデミーでの学びと両氏にレクチャーして頂いた体験をもとに、参加対象に合わせたフィールドガイドの体験プログラムを準備した。
クラフトのパートでは、参加者に3つのアイテムから1つのアイテムを選択してもらい、「動物」「虫」「花」のいずれかを、ナイフやノコギリなどの道具で作ってもらうことにした。この3つのアイテムの製作にあたっては、普段、里山ナイフ教室で指導にあたる、私とアカデミー卒業生の2人のスタッフだけでは手が足りないため、2023年度より、保育の一環として、木育ナイフ教室を行っている山県市の市立保育園の保育士の方々にも運営のサポートをお願いすることにした。保育士の先生方にとっては、ナイフの技術指導やサポートに入ることで、OJT(On the Job Training)的な指導スキルの向上につなげてもらうことを意識した。
このプログラムを実施する拠点となる会場には、岐阜県百年公園内にある旧徳山村から移築された古民家、旧宮川家住宅主屋(以下、古民家)を使用した。この古民家は2024年4月に改修工事が完了し、以後、管理する岐阜県博物館が一般向けの生涯学習講座に利用する計画を進めている。今回、岐阜県博物館から許可を得て、古民家内でのクラフトワークショップが実現した。
プログラムは2024年11/16(土)と12/1(日)に同じ内容で実施した。最初に集合した約20名の参加者と『森の生き物について学ぶ』をテーマにしたフィールドガイドと森学びプログラムを行った。内容は幼児から楽しめる構成になっており、生き物の模様カードを実際に森の中に置いて、景色に溶け込んで目立たなくなることを確認したり、様々な動物の特徴的な歩き方を真似てみたり、クイズを通して森の動物たちについて知識を深めるような内容で行った。大人も子どもと一緒の目線で考えたり、親子で動物の歩き方を真似ながら笑い合う姿がみられるなど、和やかな活動となった。里山整備の活動では、少し前の時代まで日常的であった、里山と人の暮らしの関りを説明しながら、笹刈り、間伐作業を皆で行った。
クラフトパートからは会場を古民家に移して「動物」「虫」「花」の中から希望の作品を選択し、グループごとに製作を行った。製作のサポートに入った山県市立園の保育士の先生方は「虫」のパートの製作指導を担当し、初めてナイフワークを行う参加者に対しても、熱心に技術指導と作業のサポートを行っていた。プログラムの終わりの時間がせまるころ、古民家の庭においた展示台には、個性豊かな作品が並び、満足げな表情でお互いの作品を見て楽しむ参加者の笑顔が見られた。
教員からのメッセージ
今回のプログラムでは、お昼には古民家担当の学芸員さんにも登場して頂き、囲炉裏の焚火を参加者が囲みながら、徳山村の当時の暮らしに思いを馳せるような一場面もありました。少々詰め込み過ぎた感のある構成となりましたが、多分野から専門性の高いプレイヤーが集まり、連携することで、活動内容が多岐にわたっても、体験の質の高いプログラムが実施できました。後日譚になりますが、今回製作した作品は春から始まった都市緑化フェアで屋外展示を行い、来場された方々の目を楽しませていました。
森学び・アートワークショップのプログラムレポートはこちらから、都市緑化フェアの会期中展示された作品の様子はこちらからご覧ください。