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2020年09月04日(金)

木工事例調査 美濃 岐阜②「木遊館」

クリエーター科木工専攻とエンジニア科2年林産業コース有志で美濃市、岐阜市にあるシェア工房、木工教室などの事例調査を行いました。

第二弾は岐阜市「木遊館」です。三人の目線からのレポートをお届けします。


木工事例調査 ぎふ木遊館に行ってきました!
7月27日に実施された木工事例調査における木遊館の報告をします。

木育の概念と「ぎふ木育」

ぎふ木遊館は2020年7月17日にオープンしたばかりの木造平屋建ての木育施設です。建物や遊具のほとんどに岐阜県産の木材が使われており、施設内の遊具を子どもたちが自由に使って遊ぶことができることが特徴となっています。

明るく広々とした「木育ひろば」には子供たちの楽しそうな声が響きます

 

実はこの木遊館、森林文化アカデミーにオープンしたばかりのmorinosと深い共通点があるのです。それは岐阜県の「ぎふ木育」というコンセプトに基づいた施設であるということ。木育というのは木製品が安価で便利なプラスチック製品などに置き換えられていく中で、林業や利活用の技術を守るために木製品の使い手を増やすことを目的として提唱された概念です。2004年に北海道で生まれたこの言葉は年月を経て、現在全国へ波及しつつあります。岐阜県では2013年に「ぎふ木育30年ビジョン」を策定しました。人が生まれ次世代を育てるまでの30年を目安とした長期間の計画で、段階的に山と川、人と人が「つながる」ことを重視しています。また、「ぎふ木育30年ビジョン」ではライフステージごとに様々な目標が掲げられていますが、幼児期では木や木製品と「ふれあう、親しむ」ことを目標としています。木遊館、またアカデミーで行われている森のようちえんやプレーパークもぎふ木育の関連事業です。中濃地区の木育はアカデミーで行われていますが、これまで人口の多い岐阜地域にはハード面としての木育施設はありませんでした。ぎふ木遊館はそれまで岐阜地域になかった木育の拠点として機能していくことでしょう。

子供心をくすぐる楽しいおもちゃがいっぱいありました

 

岐阜県内で活躍する木のおもちゃ作家の作品も

 

大人から子どもまで

木育が対象としているのは子ども世代だけではありません。保護者である大人も立派なターゲットです。木育の最終目標は「年齢に関係なく、森林に対して責任ある行動をとることができる人材」を育てることです。

私たちが見学したのは平日の午後。小学生は学校に行っていますし、お父さんは会社に行っている時間帯でしょう。そのため利用者の大半は幼稚園児以下の子どもとそのお母さんでした。お母さんも子どもと一緒に遊ぶ過程で大人も樹種や木の由来に興味を持ち、森に対する意識が深まることがあるそうです。

そのため館内には子どものみならず大人の興味を引く要素も複数存在しています。木育ひろばには白川郷をモチーフにした「がっしょう庵」、木の魚を釣り上げる「清流フィッシング」など岐阜をイメージした遊具があり、岐阜らしさに溢れる内装となっています。また、緩やかな4段の階段をはさんで上側は飛騨地域、下側は美濃地域をテーマにした設計がされているそうです。

画面左にそびえ立つ「がっしょう庵」

 

玄関を入ってすぐ出迎えてくれるのはイチイの木、岐阜の県の木です

 

館内には12種類の木が様々な場所に展示してあり、おもちゃが何の木でできたかを調べることができます。木遊館では先に知識があるのではなく、身近にある木のおもちゃと触れ合う過程で体験から知識を獲得していくことができるのです。

 

もちろん大人だって童心に帰って遊べます

 

また木遊館の木工室は様々な木工加工機械や道具が用意されており、子どものみならず大人にも対象を広げたワークショップも可能だそうです。オープンしたばかりの今はまだ子供向けの施設ではありますが、これからさらに多様な人々を巻き込んで「つなげて」行くことが可能になるでしょう。

木工室の糸ノコ。比較的安全に使用することができる機械です

 

新しい時代の中で

昨今のコロナウイルス感染症対策の関係で、児童館などの施設では一部の活動を制限されているのが現状です。様々な情勢の中で、本来4月に控えていたはずの木遊館オープンも7月まで延期を余儀なくされました。私たちが見学したのはオープンしたばかりの時期でしたが、未知のウイルスとの戦いの中で木遊館も手探り状態で最善の対策を進めているそうです。

木遊館では複数人が遊具を使用するため、館内に立ち入る際には利用者の検温や体調チェックが必須です。定員も午前・午後ともに50人までの予約制で利用者の過密状態を防いでいます。また、閉館後にはおもちゃの一つ一つを消毒することで安全を確保しています。

木遊館の安心を守るバックヤードも見学させていただきました

 

総括

木遊館という建物が「ぎふ木育30年ビジョン」のためのハード(物質的要素)だとすると、ソフト(無形の要素)はそこで育っていく人間といえるでしょう。

 

大人も入れるサイズの巨大丸太(樹齢400年)

 

私が興味を持ったのは、上記写真の中津川産の杉の丸太をくりぬいた土管のような遊具です。私は凝り固まった頭で丸太の中をくぐって遊ぶんだろうな~とばかり思って子どもたちが遊ぶ様子を見ていました。すると一人の子どもが丸太の上部の穴から顔を出し、あっという間に丸太から飛び降りる遊びを始めたではありませんか。しかしそれが危険だからと止める親はいません。その代わり目にしたのは子どもがけがをしないように注意したり、勇気が出ない子供に声かけをしたりしている大人の姿。滞在時間はわずかでしたが、その間木遊館内で大人が子どもに叱る声を耳にしませんでした。私はその様子に木育とは何かについて考えさせられました。大人がお膳立てするのではなく、子ども(あるいは大人自身も)自らの手で自分の価値観を獲得していく力がこれからの時代を生きる人々に試されているのかもしれません。ぎふ木遊館のみなさん、ありがとうございました!

 

文責:下山みなみ(クリエーター科 木工専攻1年)

 

 


「ぎふ木遊館」を訪ねて

4月開館予定であった「ぎふ木遊館」は、コロナ禍で延期となっていましたが、7月18日開館の運びとなり、一般利用を開始しました。館内には、「木育ひろば」「木育ショップ」「赤ちゃんひろば」「ギャラリー」「木工室」などがありますが、現在は「木育ひろば」「木育ショップ」のみのオープンにて、「木育ひろば」は、午前は10:00~11:30、午後は13:30~15:00となっています。また午前と午後の入れ替え制とし、1回あたりの入館者も50人以内と制限されているため、かなり先まで予約にて一杯になっているようです。

 

7月27日学校より、この「木遊館」を訪ね、河合さんと後藤さんに館内案内して頂き説明を受けました。今回はオープンしていない「赤ちゃんひろば」なども見学させて頂きました。

このスペースは、杉の無垢材で全体が丸い作りになっていて、赤ちゃんが誤飲しないよう丸い遊具などは大きさに留意されていました。現在は、使用されていませんがこのスペースで全体の遊具等の消毒を、4分割して行われていました。

館全体は、県産材が98%使用されていて6本の柱のみが輸入松が使われています。また岐阜の木のおもちゃ作家の支援等もされています。

「木育ひろば」では、丸太のトンネル、森の砦、長良川をイメージした木玉プール、合掌造りをイメージしたがっしょう庵などがあり、子供にとっては心躍らせる場所となっています。この広場は全体が山並、川、平野、原っぱといったイメージで作られています。

「木遊館」のコンセプトにもあります「原っぱ」のような場所づくりは、心躍らせる子供たちが自ら遊び方を発見し、考え工夫しながらのびのび使う場所にぴったりの館だと感じました。

 

平成25年に「岐阜木育30年ビジョン」が作成され、岐阜の豊かな自然を背景とした「森と木からの学び」を『ぎふ木育』と称し、約30年のスパンで段階的(6つの取り組みを段階的に)に達成して、年齢に関係なく森林に対して責任ある行動をとることができる人材づくりを目指しています。

現在県内100か所以上で『木育ひろば』の取り組みがなされていますが、その拠点となるのが今回の「ぎふ木遊館」となります。

 

コロナ禍で一部のオープンとなっていますが、課題も見つかってきていますので、今の時間を利用して対策を練られているようです。

施設内のおもちゃの破損の早急な手直し、丸太トンネルなどの一部木のささくれなどは、危ない場所で終わるのでなく、親子で確認する機会としてゆきたいという話が出ていました。また平日には3歳未満の幼児が中心ですのでスタッフの方は危険な場所や、遊びに対してのサポートをされていますが、一部低位置での木の角などもまだありますので、より安全に向けて検討されたらと思いました。

館の17時以降の利用についても、駐車場が21時まで利用できますので、木をとおして大人のワークショップなども今後は増えてゆくことと思いますが、森林文化アカデミーの学生として多くのアイデアを出してゆき、貢献出来たらと考えています。

今回は、お忙しい中全館案内頂きました河合さん、後藤さんには感謝申し上げます。ありがとうございました。

文責:佐古速人(クリエーター科 木工専攻1年)

 

 


木工事例調査(ぎふ木遊館)

岐阜県は、全国有数の森林県です。古来よりその豊かな森林からたくさんの恩恵を受けて営みを続けており、今も「木と共生する文化」が受け継がれています。

『岐阜県の豊かな自然や、それに影響を受けて育まれた伝統と文化に誇りを持ち、地域の将来を担っていく人を育てたい。』そんな思いから「ぎふ木育」が始まりました。

これまでぎふ木育に携わってこられた方々の思い・活動の集大成として、『ぎふ木遊館』が令和2年7月17日にオープンしました。

 

では、ぎふ木遊館とはどんな場所なのでしょうか…。

コンセプトには、『遊びのきっかけに満ちていて、自然のつながりも感じられる豊かな場所、そんな「はらっぱ」のような場所をつくりました。「はらっぱ」に明確な機能はありません。その代わりに、決まった使い方もなければ、こうしなければならないという制約もありません。子どもたちがみずから遊び方を発見し、考え工夫しながらのびのび使う場所です。』とあります。

 

思わず深呼吸をしてしまうような、心地良い木の香りでいっぱいの館内で子ども達に目を向けると、思い思いの玩具を選び、触れて、音を聴いて、試して…夢中になって遊んでいるようです。

大きな杉のトンネルの途中に空いた穴から頭を出し、全身を使ってよじ登っては飛び降りている男の子がいました。一度できると何度もなんども…。自分の背丈より大きいこのトンネルから飛び降りるまでには、きっと様々な思い・考えがあったのではないでしょうか。トンネルの上から床までの高さを認識し、今の自分の力と向き合い、「できる」と判断し、一歩踏み出す。

見守っている大人は時にヒヤヒヤとすることもあるかと思います。

 

木遊館職員の後藤さんに、子どもの発想と想像力を見守るスタッフの方の姿勢を伺いました。

 

子ども達は遊びの中で様々な発想を生み、試行錯誤を繰り返します。おままごとで使っている魚を魚釣りのところへ持って行って釣ってみよう、あれとあれを組み合わせたら面白そう…!木遊館では、玩具を別のコーナーへ移動させることを自由にすることで、子どもたちの思いに寄り添っていました。

大きな危険を伴うこと以外なるべくダメと言わない、大人からすると好ましくない行動(硬いものを投げる…など)に対しても、子どもは誰かにぶつけたくて投げているのではない、「投げる」という行動が楽しいだけなので、楽しいことに目を向けられるようさりげなく促すことで危険を防いでいる…。後藤さんのお話を聞きながら館内で感じていた居心地の良さの理由に気が付きました。大人の声がほとんど聞こえず、聞こえるのは子どもたちが楽しそうに遊び、誘い合う声なのです。まさに『はらっぱ』で遊んでいるよう…!

ぎふ木育に関する幅広い知識を持つぎふ木育指導員や、ぎふ木育サポーターであるスタッフの方が、コンセプトを共通理解するために、このオープンまでに…そしてオープン後もたくさんの話し合いの時間を重ねてこられたのだろうと感じました。

そんなスタッフの方が見守って下さるからこそ、のびのびと遊びこむ子どもたち、穏やかにまなざしを向けるお母さん、お父さん達の姿が見られるのではと思いました。

 ぎふ木育の成り立ちや木遊館が完成するまでの様々な取り組み、来館する方の“木”に対する興味・関心の変化について熱意を持って説明して下さった河合さん。

 

ぎふ木遊館を通して地域の人々が抱いた森林への気づき・興味・関心・思いをどこに繋げていくか…河合さんは「森林文化アカデミーに繋げていきたい」とおっしゃいました。

森林文化アカデミーは『森と人と文化の交差点』。今年度、森林教育の総合拠点であるmorinosがオープンし、今まで以上に子どもから大人まで、幅広い年代の方が集える場所となりました。

 

東北出身の私からすると、木遊館やmorinos、森林文化アカデミーが身近にある岐阜県の環境がとてもうらやましい、と常々思っています。この素晴らしい環境をたくさんの人に知ってもらい、あふれる魅力を伝えられるよう、情報発信能力・そして“自分の言葉で伝える力”を磨いていきたいと思います。

 

 

文責:髙橋久美子(クリエーター科 木工専攻1年)