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2023年09月04日(月)

パーマカルチャーの現場から学ぶ 〜シャンティクティ(長野県)編〜

 日本の里山文化をはじめ、アジアの持続可能な農的暮らしのスタイルを参考にしてオーストラリアのタスマニア島でビル・モリソンとデイビッド・ホルムグレンによって1970年代に体系だてられた「パーマカルチャー(Permaculture)」。

 「持続可能」「多様性」「調和」を柱とした暮らしのデザインで、①自然への配慮、②人への配慮、③余剰物の公平な分配を、倫理としています。

 気候変動や土壌流出、人口増加、ストレス社会など、人類にとって様々な問題が生まれ今後もさらに予測困難になっていくであろうこれからの時代に必要な「在り方」であると私は考えています。
 
 そしてそのルーツが日本の里山文化や森林文化にあるというのもなんだか嬉しいですね。パーマカルチャー と言うと横文字で難しそうに感じますが、実は日本人が長い歴史の中で自然と共に築き上げてきた「里山文化」を、より多くの人々の暮らしや心が本当の意味で持続可能で豊かになることをゴールに再編集された「現代版里山文化」なんです。
  
 森は地球上で最も豊かな空間です。

 そんな森林空間を舞台に持続可能な暮らしを提案していくことを開学理念としている我が森林文化アカデミーは、まさにパーマカルチャーの学校とも言えるでしょう。

 そんなアカデミーには、日本各地のパーマカルチャー実践者を訪問したり、アカデミーで実践したりする授業があります。今回はそのうちの一つ「パーマカルチャーの現場から学ぶ」の授業として1~2年に一度はお邪魔している長野県安曇野で、パーマカルチャーを長年実践されている臼井健二&朋子ご夫妻が運営されている「シャンティクティ」を訪問し2泊3日、たっぷりと体験しそして学んできました。そんな実習の報告を学生の野田恭子さんが報告してくれましたので以下にご紹介します。 (ナバ)

<学生からの報告>

砂漠を後に残すのでなく、豊かな森になっていく生活 ~パーマカルチャーの現場から学ぶ

9月1日~3日の3日間、クリエーター科の学生・教員あわせて12人で、長野県の安曇野にあるゲストハウス・シャンティクティに滞在し、持続可能なライフスタイルである「パーマカルチャー」について学んできました。

パーマカルチャーとは?

 パーマカルチャーとは、パーマネント(永続的な)とカルチャー(農業:agriculture、文化:culture)を合わせた言葉で、土地利用や住居など私たちの生活全体を、エネルギー効率がよく、生態系と調和していて、持続可能となるようにデザインしていこうという考え方です。

建物は断熱性や風通しなどエネルギー効率を考慮して設計されており、建材としてその土地でとれた木材・わら・土や廃材などを使うことによって建築の際のエネルギーを少なくするとともに、取り壊す際も極力廃棄物が出ないように考慮されています。


【写真1】:現場でとれる木材、土、わらで作った建物(撮影:酒井浩美)

「お風呂のお湯はガスや石油を使わずに太陽熱温水器で沸かす」「薪でピザを焼くオーブンの余熱でジャガイモをふかし、煙突にめぐらせた水道パイプで皿洗い用のお湯を温める」など、ゲストハウスのあちこちにエネルギーを最大限に生かす工夫が散りばめられていました。


【写真2】:エネルギーを無駄なく利用する薪のシステムキッチン(撮影:梅村成美)

食料の自給と物質循環もパーマカルチャーの特徴のひとつです。ゲストハウスにはコンポストトイレが設置されており、排泄物から作った堆肥で自分たちが食べる作物を育てています。

このことの利点は、単に「資源を有効活用し物質を循環させることができる」ということだけでなく、「遠いところから食料を運んだり化学肥料を作ったりするために使われるエネルギーがいらなくなるため、エネルギー効率がよい」というところにあります。

「エネルギー効率」などというと無機質に響くかもしれませんが、ゲストハウスのオーナー・臼井さんの案内で見学したガーデンは、平らなむき出しの地面に単一の作物が植えられた私たちがよく知る「畑」とは異なり、でこぼこの地形を野菜・ハーブ・樹木・花などが混然一体となって覆いつくす、とても美しい「里山ガーデン」のようなところでした。

【写真3】さまざまな作物が育つガーデン(撮影:野田恭子)

このガーデンでは、

・水分量や日当たりなど、場所ごとに異なる環境に合った植物を混植することで多様性をつくりだし、病虫害の蔓延を予防する

・多年生作物やこぼれ種で自律的な再生産を促す

・草が根を伸ばし土壌が耕されることを逆手に取って、雑草も活用する

…などなど、さまざまな工夫がなされていました。

パーマカルチャーの体験で見えてきたもの

ゲストハウス滞在中は、実際にこのガーデンから作物を収穫し、井戸水と薪を使って料理して食べ、敷地内に排水する水の水質に配慮してお皿を洗い、コンポストトイレで用を足す…という生活を実践しました。

これらを実際に体験してみると、自分が介在する物質循環について「何がどこから来て、どこに行くのか」ということが如実に目に見えてきて、とても新鮮な感覚でした。

「自分が出したものはやがて自分が利用するものとして返ってくる」ということが身をもって感じられるため、排水をできるだけきれいな状態で流すようにしたり、薪を燃やすことで取り出した熱をどうやったら有効活用できるか考えたりと、自然と自分の行動に変化が生まれます。


【写真4】:ガーデンで収穫した野菜を料理(撮影:北倉裕美)

 普段の私たちにとって、特に都市に生活していると、「自分たちの食べているもの、使っているエネルギーがどこからやってきたのか?」「自分が出した排泄物や廃棄物がどこに行くのか?」「それらのものが手元に届くために、また出ていくものが処理されるために、どのくらいのエネルギーが使われ、どのような環境影響があるのか?」といったことはあまり目に見えません。

例えば、見た目はほとんど同じで産地の違う2つのカボチャがお店にあったとして、私たちはそれらをほぼ同じようなものと認識してしまいがちです。

しかしよく考えてみれば、近所でとれたカボチャと、遠い外国から船やトラックで運ばれてきたカボチャとでは、手元に届くまでに使われたエネルギーの違いは驚くほど大きいに違いありません。

砂漠ではなく森になっていく生活

滞在中は、見学や実体験だけでなく、国内外でのパーマカルチャーの取組みについて紹介したドキュメンタリー映画を鑑賞し、意見交換も行いました。

「環境に配慮した暮らし」と聞くと、ときとして「我慢の多い不自由な生活」をイメージするかもしれません。

しかし映画に出てくる人はみな楽しそうで、パーマカルチャーは我慢ではなく、クリエイティブで心豊かな生活を追求する楽しい活動なのだということが伝わってきました。

臼井さんのお話のなかに、「森林の生態系はとても豊かで、自然は放っておいたら森になろうとする。しかし、四大文明が滅びた後には森ではなく砂漠が残った。持続可能な暮らしとは、その土地が砂漠ではなく森になっていくような生活ではないだろうか」というものがあり、とても印象的でした。森林について学ぶ私たちにエールを送ってくださいました。

 

森のようちえんと、いろんな人が楽しめるプレーパーク

臼井夫妻は森のようちえんについても長年取り組まれていて、ようちえん創成期のお話などもお聞きすることができました。

また、ゲストハウスの向かいには、ツリークライミングの達人・加賀さんがプレーパークを目下建設中で、そちらも見学させていただいたり、実際に利用させてもらったりしました。車椅子の人も森を楽しめる工夫など大変興味深く、勉強になりました。


【写真5】プレーパーク(撮影:北倉裕美)

小さなアクションが大きく社会を変えていく可能性

最終日には「コミュニティダンス」のワークショップも体験しました。数人で輪になって隣り合う人に手のひらを向け1メートルほどの棒を支えあい、目をとじた状態で音楽に合わせてダンスをするというものです。

実際にやってみると、人とのコミュニケーションのあり方について体感できる大変興味深いワークでした。


【写真6】コミュニティダンスのワークショップ(撮影:北倉裕美)

まず、両隣の人の動きを無視して自分本位に動こうとすると、たちまち棒を取り落として輪が崩壊してしまいます。

そこで今度は、手のひらに当たる棒の先端の感触から両隣の人の動きを注意深く感じ取り、それと調和するように気をつけながら自分の表現したいように動いてみます。するとどうでしょう、棒は落ちず、あたかも全員が一つの生き物であるかのようななめらかな動きが生まれるのです。

これは「コミュニケーションにおいて相手を尊重することの大切さ」を示唆しているようにも考えられるし、「さまざまな生き物や環境がつながりあって機能する生態系のモデル」のようにも感じられました。

さらに、「自分に隣接する人だけに向けたはずの小さな配慮や動きが、全体の動きに影響を及ぼしていく」という様子は、「私たちの日々の暮らしの中の小さな配慮やアクションが、世界全体の変化につながっていく」というパーマカルチャーの可能性を象徴しているようにも感じられました。

 いきなりシャンティクティのような高度な自給自足の生活を実践することは難しいと誰もが感じるでしょう。

しかし、「野菜や木製品などを購入する際、なるべく近くで取れたもの・作られたものを選ぶ」「生ごみを堆肥としてリサイクルする」といった日常的なアクションのなかからも世界を変える力が生まれてくる、そんな希望を感じさせてくれた、学びの多い3日間でした。

森づくりや利用を考える際も、「生態系の働きをうまく活用する」、「その場所で得られる資源やエネルギーを有効利用する」といったパーマカルチャーの視点を取り入れることにより、よりクリエイティブなアイデアがうまれる可能性を感じました。

     (クリエーター科 森林環境教育専攻 1年 野田恭子)