アカデミー教員インタビュー

知れば知るほど、山がどんどん楽しくなる

大洞 智宏(林業専攻)

 

教員インタビュー大洞先生1

森づくりや日本の森林について教えている林業専攻の大洞先生は、授業以外でもアカデミー内のサークル「自然を観察する会」で、学生たちと一緒に自然を見たり、山登りをしたりしています。学生に山や森の楽しさを伝えている大洞先生は、どんな道をたどってアカデミーにたどり着いたのか、じっくり聞いてみました!

 

 

 

趣味は弓道!

 

――先生はどんな幼少期でしたか?                                    

大洞:出身は岐阜県の飛騨で、まわりは山だらけだったんだけど、小さい頃は森林とか山にはまったく興味はなかった。当時、家に人が入れるくらい大きな釜があったから、焚きつけのスギの葉っぱを拾いに山に行ったり、小学校の授業の中で学校の裏山に入っていろいろ探したりはしたけど、山に遊びに行った記憶は全然ないんだよね。だから、特別な思い入れはない。近くに川があったから、魚を網ですくったり、虫を捕まえたり、近くのグラウンドで遊んだりしていたかな。

 

教員インタビュー大洞先生2

 

――中学校、高校の部活は何をやっていましたか?

大洞:高校のときは弓道部と地学部に入っていて、大学も弓道部。弓道場って探せばあるので、今もそういうところに行きながら、ぼちぼち続けているね。機会があれば、社会人向けの大会にも出ている。

――弓道はどんなところがおもしろいですか?

大洞:試合だと、的に当たっていい成績が取れたら単純に楽しい。試合以外でも、弓を引いているときは何も考えない時間なので、気分転換になるのはいいよね。まあ、当たらないとストレスはたまるんだけど。弓道は年を取ってもできる競技で、年齢や体力や性別は関係なし。弓持って歩ければOKだから、そういう意味でも長く楽しめる競技だと思う。

 

教員インタビュー大洞先生3

 

――中学生、高校生の頃の将来の夢はなんでしたか?

大洞:あんまりビジョンはなかったね。とりあえず大学に行って、植物の勉強はしたいなあとは思っていたけど、その先どういう職業につきたいとか、そこまでは何も考えてなかった。こうやって振り返ってみると、深く人生を考えずに生きてきたな。本当に行き当たりばったり。

 

――いつ頃、植物に興味を持ったんですか?

大洞:高校のときにいろんな本を読んでいて、その中に砂漠緑化の本があってね。それで、ああこういう分野もあるんだなと思った。昔は今ほど地球温暖化とは言われていなくて、砂漠化の原因も、人が使うことによって塩分が溜まって草が生えなくなったりとか、純粋に風で砂が移動してきたりとかいろいろあるけど、もし人が使うことによって砂漠化が進んでいるのなら、人の手でもとに戻した方がいいかなって思ったんだよね。ただ、砂漠に適して生きている動物もいるので、砂漠がまったくなくなればいいと言うわけではないんだけど。いろいろ調べてみたら鳥取大学に乾燥地研究センターっていうところがあって、砂漠緑化の勉強をするなら鳥取大学がいいかなと思った。それで、鳥取大学の農学部に進学した。

 

教員インタビュー大洞先生4

アカデミーでの授業の様子。胸の高さでの木の直径を測っている。

 

 

研究と行政を行ったり来たり

 

――鳥取大学で、砂漠緑化を学ばれたんですか?

大洞:いや、砂漠の勉強は専門的にはしなかったね。1年生の概論の中で、乾燥地の授業はあったんだけど、それを専門に研究まではしなかった。でも、乾燥地研究センターにはしょっちゅう行っていて、友だちの手伝いをしたり、そこの先生といろいろ話をしたりはしたかな。結局、僕は造林学研究室に行って、日本の広葉樹の研究をした。

 

――大学の授業はおもしろかったですか?

大洞:森林とか林業の授業は結構おもしろかった。あと、やっぱり演習林実習は楽しかったね。演習林は岡山県にあったので、あんまり近くはなかったんだけど。あとは、卒論をやるときが楽しかった。自分でいろいろ考えて仮説を立てたり考察をしたり、みんなで野外に調査に行ったのは楽しかったな。でも、いちばん覚えているのは、1年生のときに農学の概論の授業で聞いた、リンゴの剥き方のはなし。リンゴは丸いまま皮を剥いていると、剥いたところをべたべた触ることになるんだけど、縦に割ってその端を持って皮をむくと、最小限しか触らずに剥けるので、それをお客さんに出す。あとリンゴが酸っぱいと困るから、できればふたつくらい用意して混ぜて出す。そういうことも必要ですよってはなしだったんだけど、それがいちばん頭に残っているかな(笑)。今でもそうやって剥いているから、実生活でも役に立ってる。

 

教員インタビュー大洞先生5

アカデミーでの授業の様子。広葉樹間伐のための選木をしている。

 

 

――就職活動は、どんな企業を受けたんですか?

大洞:企業に就職することはまったく考えていなかった。林業や植物に携わる仕事をしたかったけど、そのときの自分には、いろんな選択肢が思い浮かばなかったんだよね。森林組合とかコンサル系とか、そのくらいしか思い浮かばなくて、その中のひとつに県職員があった。あまり就職したいとも思ってなかったんだけど、ただまあ就職試験をまったく受けないのも親に申し訳ないので、とりあえず受けようかなって。だから、人生あんまり深く考えてないんだよ。当時の岐阜県は森林科学っていう採用分野があったので、そこの試験を受けて岐阜県職員として採用された。

 

教員インタビュー大洞先生6

 

――植物の研究を続けたいなと思って、県職員になったんですか?

大洞:いや、就職の時点ではあんまり考えてなかったかな。行政の仕事をやっていく中で、県職員の中にも研究職があるので、せっかくだったら研究をする仕事がやれたらいいなと思って、異動の希望を出した。研究職は入れ替わりが少ないから、チャンスが合わないと入れないんだけど、就職して行政の仕事を2年やった後にたまたま研究職に異動になったので、それは運がよかったかなと思う。行政の仕事より研究職の方が楽しかったので、そっちをベースにしていきたいなと思った。

 

教員インタビュー大洞先生7

アカデミーでの授業の様子。新しく生えてきた樹木の調査をしている。

 

――そこからずっと研究職だったんですか?

大洞:いや、僕はいろんなところに行ったんだよね。最初は行政の職員として2年間働いて、その後、森林研究所の研究職に異動になった。研究の仕事を4年して、その後は林業関係ではなくて、科学技術振興の部署に3年。その後、また森林研究所に戻って5年間研究をして、次は商工労働部で地場産業や伝統工芸品の振興の仕事を1年。それでまた森林研究所に戻って4年間研究して、その後は林政部の森林計画を担う部署に3年。その後、また森林研究所に戻って研究の仕事を4年して、人事異動でアカデミーに来た。研究職でこんなにもあっちこっち行く人は少ないんだけど、僕はいろんなところに行ってるね。楽しいは楽しい。その分いろいろ苦労はあるけど。

 

教員インタビュー大洞先生8

森林研究所時代の大洞先生。この頃から、アカデミーでの授業にも関わっていた。

 

視野を広げながら、やりたいことをみつける

 

――アカデミーに異動してくださいって言われて、どう思いました?

大洞:やめてくださいって思ったよ。まだ研究職でやりたいことがいろいろあったし、異動が多かったので、腰を落ち着かせて仕事をさせてくださいって思った。でも県職員は異動ですって言われたら拒否権はないので、ええー…とは思ったけど、行かざるを得ない。そういうところは他の先生たちとは違う。ほとんどの先生は、アカデミーの教員募集に手をあげて、自分から希望して来ているので。僕はええー…って言いながら来た(笑)。

 

教員インタビュー大洞先生9

 

――アカデミーで楽しいことはなんですか?

大洞:外に実習に行って、みんなで植物を見たり、調べたりするのは楽しいよね。放課後も、植物の名前とか種類とか、そういう話をするのはおもしろい。

――学生室にときどき葉っぱを持ってきていますよね?

大洞:それは、僕がおみやげに実習で取ってきた葉っぱかな。結局、授業の時間だけでは足りないと思うんだよね。植物を見て1回で覚えられる人ってなかなかいないじゃない。そうすると、同じものを何回も見た方がいいし、似たものとか、ここにないものとかもできるだけ見た方が頭に入ると思う。せっかくアカデミーに来て、森林の勉強をするのに、植物の名前をあんまり覚えてないっていうのはさみしいなと思って。だから、いろいろ採ってきて、おみやげって机の上に置いて、みんなに見てもらってる。自分の勉強にもなるしね。

 

教員インタビュー大洞先生10

アカデミーでの授業の様子。現在生えている樹木の種類、大きさの調査をしている。

 

 

――大洞先生にとって、森林や樹木の魅力ってなんですか?

大洞:山や森を歩いていると楽しいよねって言うのがいちばん。この分野に入ったのは大学で農学部の森林系に進んだからではあるんだけど、そのときは山に魅力を感じていたわけではなかった。でもやっているうちに、山を歩くとなんか楽しいし、気分がいいなって感じるようになったんだよね。花を見たらきれいだし、この場所にこの植物があるのはなぜだろうって考えるのも楽しい。本や図鑑で植物の名前や性質を知ると、山を歩きながらいろんなことに気がつけるようになる。そうすると、どんどん楽しくなってくるよね。

 

教員インタビュー大洞先生11

 

――大学とアカデミーってどんなちがいがありますか?

大洞:例えばエンジニア科だと、技術を身に付けて就職するために来ているから、大学や専門学校に行くのと同じような感覚で来ている。だからあまり変わりはないんだけど、クリエーター科だと、大学を卒業して来るか、仕事を辞めて来るかだよね。大学院でも就職でもなく、ここに来て勉強しようと思っている人たちなので、覚悟が違うなあと思う。林業大学校のように林業の技術を学べるところはいくつもあるけど、クリエーター科に相当するような林業の学校は少ないかな。あと、大学はほとんど座学。アカデミーは野外に出て実習が多いので、そこが決定的に違うと思う。大学は学年が進めば進むほど、どんどん分野がせばまっていって、自分のやりたいことを突き詰めていくイメージ。アカデミーはそうじゃなくて、森林をキーワードにして、林業、環境教育、木工、建築があって、授業もいろんな分野が提供されているから、視野を広げながらやりたいことを見つけられるよね。大学とそのへんが違うと思う。

 

教員インタビュー大洞先生12

 

――将来、アカデミーに入学したい人や森に関わる仕事をしたい人に向けて、メッセージをお願いします!

大洞:アカデミーはおもしろいと思うよ。ただ、クリエーター科に入るんだったら、自分がなにをやりたいかっていうのを、なにかしら思って入ってきた方がいいかな。例えば、林業専攻は、チェーンソーを動かしたりとか、山を歩いたりとか、体力がいるじゃない。ある程度学ぶ目的がないとつらくなるし、つまらなくなると思う。ここに来てやりたいことを探してもいいけど、2年間って結構短い。アカデミーは授業以外にも森に関するいろんなことができるので、ある程度自分でこれをやりたいなと思って入ってきた方が、時間を無駄にしなくていいと思う。人生やり直しは何回でもできるけど、学校っていう期間が決まったものの中では、ある程度考えていた方が効率はいいよね。入ってから悩むのもいいけど、完全に絞り切れてなくても、こんなようなことってイメージはあった方がいいと思うよ。

 

インタビュアー 由留木 楓(森と木のエンジニア科)

 

 

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