野田恭子(のだ きょうこ)

 

〜社会は生態系。まわりの必要性から仕事がうまれ、つながりのなかで自分を生かす〜

野田恭子 岐阜県加茂郡東白川村 地域おこし協力隊

 

 

■プロフィール

森林文化アカデミー23期生。神奈川県川崎市出身。環境省で13年間、自然環境行政に携わった後、京都で染織を学び、日本各地の自然布の産地を訪ねる。神社仏閣の建物や祭礼道具の絵付け職人として働く一方、岐阜県東白川村へ田んぼの手伝いに通ううち、この土地で暮らしたいと思うようになる。森林文化アカデミー卒業後、東白川村へ移住し、地域おこし協力隊として活動している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■アカデミー入学のきっかけ

京都で暮らしていた頃、友人たちが取り組む環境保全型の田んぼを手伝うため、6年ほど前からたびたび東白川村を訪れていました。村に通ううちに、自分もこの自然豊かな村で暮らしたいと思うようになりました。そんな折、友人から森林文化アカデミーのことを聞いて興味を持ちました。

友人たちは、ときどき都会から人を招いて田植えや森林整備などを行い、自然体験のような活動も行っていました。移住前にアカデミーで学べば、そういった活動の役に立つのではないかと思ったのです。

また、東京にいたときに仕事のしすぎで心身のバランスを崩しぎみだった時期がありました。そんなとき、自然にふれることで心身の健康を取り戻した経験があり、自然とふれあう体験の大切さを実感していたというのもあります。

手伝いに行っていた田んぼ

 

 

■現在の仕事
現在は東白川村の地域おこし協力隊として活動しています。自治体によって協力隊の活動内容はさまざまですが、私の場合は、役場から依頼される仕事に加えて、自分の興味のある分野で活動することができます。活動は大きく分けて四つあります。

一つ目は、自然体験です。村有林「みんなのおやま」を拠点に、子どもたちが自由に遊べるイベントを開催したり(https://www.instagram.com/minnano_oyama/?hl=ja)、小学校の裏山の活用や森林での野外授業のお手伝いをしたりしています。大人向けには、葛のつるから糸を取るワークショップや、森の中でたき火を囲みながらお茶を楽しむイベントなども企画しています。

こうした活動を通じて、村の人には自然の中で過ごす価値を再認識してもらい、村外の人には「この村で暮らしてみたい」と感じてもらえるようなきっかけづくりを目指しています。最近は、「自然を生かした子育ての魅力を発信することで、子育て世代の移住・定住につなげられないか?」というテーマで、保育園とも連携した活動がはじまりつつあります。

みんなのおやま

 

二つ目は、森林・環境保全です。東白川村はヒノキの産地であり、昔から山水のにごりや土砂災害を防ぐため、間伐を中心とした丁寧な森林管理が行われてきました。その積み重ねもあって、村の森林の約7割が、環境や社会に配慮した森林管理等を認証する国際的な「FSC認証」を取得しています。

現在、適切に管理された認証林の保水力や水質浄化機能、生物多様性がどうなっているか調べる調査が行われており、そのお手伝いをしています。昨年度は、日本で初めて開催されたFSCアジア太平洋地域会合の際、海外から訪れた専門家の視察受入れにも携わりました。

また、森林の伐採にあたって土壌流出を防ぐための条例改正も担当し、その際にはアカデミーの柳沢先生にも専門的な助言をいただきました。卒業後も相談できる先生方の存在は、とても心強いと感じています。

海外からの視察の受け入れ

 

三つ目は、お茶に関する活動です。東白川村は、美濃白川茶の産地として知られています。しかし、近年は、需要の変化や生産者の高齢化などにより管理が難しくなった茶畑が増えています。特に、長年にわたって無農薬栽培が続けられてきた茶畑を未来へ残したいという思いから、管理作業を手伝ったり、無農薬という価値を生かした新しい展開について考えたりしています。

茶畑の管理

 

四つ目は、地域づくりです。「つちのこフェスタ」をはじめとするイベントの運営を手伝うほか、住民同士が気軽に語り合える「村のこと、話そまい会」の企画・運営にも携わっています。アカデミーでは、車座になって対話を重ねる場を何度も経験しました。その学びは、今、地域の人と人をつなぐ活動にも生きています。

「村のこと、話そまい会」のチラシ

 

■仕事のやりがい

一番うれしいのは、自分が裏方として準備したことで、誰かが楽しそうに過ごしている姿を見られることです。たとえば、「みんなのおやま」で子どもたちが夢中になって遊び、保護者の方も楽しそうにしている。そんな光景を見ると、心があたたかくなり、「やってよかったな」という気持ちになります。

地域おこし協力隊員になる前は、「新しい企画を次々と生み出し、地域をぐいぐい引っ張っていく人」が活躍する仕事だと思っていました。そのため、着任当初は「自分も何か目新しいことを始めなければ」と焦る気持ちがありました。

しかし、実際に地域で暮らし、仕事をしてみると、考え方が変わりました。仕事は自分で無理につくり出すものではなく、地域の中にある必要性から自然と生まれてくることが多いのです。

「みんなのおやま」にて

たとえば、「みんなのおやま」の活動は、以前から森で幼児向けのおさんぽ会を開いていたお母さんが、子育てで忙しくなり、活動を続けることが難しくなったことがきっかけでした。「誰か続けてくれたら…」という必要性を受け取り、遊び場づくりに携わるようになりました。

葛から糸を取る体験イベントも、茶畑の草取りボランティアで知り合った方から「やってくれませんか」と声をかけていただいたことが始まりです。

もちろん、ただ待っているだけではそうしたご縁は生まれないかもしれません。しかし、少しでも興味のある場所へ足を運び、地域の人と関わっていると、「これが必要とされているな」というニーズに出会います。その中で自分にできることがあれば引き受け、裏方として支える。その結果、誰かが新しい体験をしたり、人と人がつながったり、地域で何かが少し前に進んだりする。そんな様子を見ながら、心の中でそっと喜んでいます。

学童保育で子どもたちと草木染

あるとき、「私は中継点のような存在でいいんだ」とハッと気づいた瞬間がありました。自分一人でゼロから生み出すのではなく、社会のニーズと自分のできることがかけあわさって、自然と自分の役割が生まれてきます。

私は、「社会は生態系に似ている」と思います。生態系では、ライオンのように目立つ生き物だけでなく、草や昆虫、微生物まで、それぞれが役割を果たしているからこそ全体として成り立っています。人の社会も同じで、目立つ人もいれば、人を支える人もいる。そのどちらが欠けても、社会はうまく回りません。

私はどちらかというと、虫や微生物のような目立たない存在です。でも、そうした役割も、生態系がうまく回っていくのに欠かせません。変に背伸びをせず、焦らず、自分なりの役割に安心して、自信をもっていいんじゃないかと思えるようになりました。

枯れたマツを分解するキノコ

 

■アカデミーで学んだこと

アカデミーで学んだことはたくさんありますが、大きくみると二つあります。

一つは、実際に体験しながら学ぶことの大切さです。本やインターネットから知識を得ることもできますが、実際に自然の中で体を動かして学ぶことでしか身につかない感覚があります。

子どもキャンプの実習では、体力的にも精神的にも決して楽ではありませんでしたが、仲間と支え合いながら過ごした時間は、生きていくうえで大きな財産になりました。タープの設営やたき火など、日常的に繰り返すことで身につけた技術は、今では自然体験の活動で生きています。

また、毎月同じルートを歩いて季節の変化を観察する実習や植生調査では、自然の美しさや不思議さを実感することができました。わからない植物に出会ったときにどうしたらいいかといったことも、今の仕事に役立っています。

体験から学ぶ(両生類の実習)

もう一つは、人とのつながりです。同じ釜の飯を食べ、語り合い、ともに学んだ仲間や先生方との出会いは、今でもかけがえのない財産です。

「みんなのおやま」のイベントには、卒業生の仲間がスタッフとして手伝いに来てくれますし、自然環境保全条例の改正では柳沢先生に相談させていただきました。村の小学校の裏山を活用した授業では、ナバ先生にも協力していただいています。

卒業して終わりではなく、困ったときに相談でき、一緒に活動できる人たちがいる。そのつながりは、今の仕事を支える大きな力になっています。仕事で初めて会う方に「森林文化アカデミーで学びました」と話すと、共通の知り合いが見つかることも少なくありません。そうした人のつながりが、新しい仕事や地域とのご縁につながることも多くあります。

同じ釜の飯を食った仲間たち

■アカデミーの思い出
授業や実習はもちろんですが、特に印象に残っているのは、有志で葛から糸をとってのれんを制作したプロジェクトです。木造建築専攻の同期から、「自力建設でつくった建物に、自然素材ののれんを掛けたい」という相談を受けたことが始まりでした。

葛布(くずふ)づくりは、とても手間のかかる仕事です。限られた時間の中で、本当に完成できるのだろうかという不安もありました。それでも、「必要としてくれる人がいる」と思うと、不思議と動くことができました。

仲間と一緒に炎天下の河原で葛のつるを採り、小川で繊維を洗い、かまどで火を焚いて草木染めをし、自宅に集まって布を織る。その一つひとつの工程が、今振り返ると、とても豊かな時間だったと感じます。

誰かが「こんなことをやってみたい」と声を上げ、それに共感した人が少しずつ集まり、それぞれができることを持ち寄って一つの形になる。そんなプロセスの面白さをアカデミーで体験できたことは、今の仕事にもつながっていると感じています。

葛のつるから糸をとる

 

■将来の展望
3年間の地域おこし協力隊の任期が終了した後は、協力隊の活動を通じて出会ったテーマや人とのつながりを生かして活動していきたいと思います。

友人たちと環境保全型の農業や里山保全などをやりつつ、「みんなのおやま」の活動もなんらかの形で続けていきたいし、自然の中で心身のバランスをとりもどしてもらえるような自然体験を提供できたらと思います。

あちこちから「卒業後はここで働かないか」というお話もいただきますが、これまでの活動とつながるテーマでパートタイムで働きつつ、個人事業として自分の活動できれば理想的だなと思います。

東白川村の風景

 

■入学を希望される方へのメッセージ

アカデミーでの2年間は、とても濃密な時間でした。「とりあえず授業を受ける」というよりは、ぜひどっぷりとつかってみるのがオススメです。

授業や実習だけでなく、さきほど述べた葛布づくりのような、翔楓祭の企画や自主プロジェクトなど、「ちょっと面白そう」と思ったことには、ぜひ挑戦してみるのもよいと思います。アカデミーはそうした挑戦を応援してくれる環境ですし、物的にも人的にも本当に恵まれています。

葛からとった繊維

今は情報も選択肢もあふれていて、私自身も含め、「自分は何をしたいのだろう?」「どんな仕事を選べばいいのだろう?」と悩みやすい時代だと思います。しかし、地域で活動するようになって、お年寄りから昔の暮らしや仕事についてお話を聞く機会があり、考え方が少し変わりました。

昔は、家業を継いだり、地域にある仕事に就いたり、知り合いに紹介してもらったりすることがほとんどでした。今より選択肢が限られていて不自由ともいえますが、今より悩まなくて済むともいえます。そうやって仕事を選んだことで、その人は不満だったのか?というとそういうわけでもなく、仕事を愛して充実した人生を送っていたりします。

選択肢が多かろうが少なかろうが、人は生態系のようなつながり・ご縁の中で生きているので、結局は自分が出会ったもののなかで、まわりから必要とされていることで、自分ができることをやっているうちに、自然と道ができていくということもあるのかもしれません。

目の前のご縁、自分なりのニッチ(生物種が自然の生態系の中で占める位置や役割)を大切に生きていけば、膨大な選択肢に圧倒されずに安心して歩んでいけるのではないでしょうか。アカデミーは、そんな出会いや経験をたくさん与えてくれる場所だと思います。

 

卒業式後の謝恩会にて

 

野田恭子(23期生:岐阜県加茂郡東白川村 地域おこし協力隊)