小野の長家

卓越風や日照条件などをシミュレーションしたパッシブデザインの住まいです。計画時のエネルギー設計とその後の実測などを行っています。(兵庫県小野市)

第五回地域住宅計画賞 自立循環型住宅部門(地域住宅計画推進協議会)2010年
自立循環型住宅研究会アワード2010ゲスト審査員賞(南雄三)2010年

2009小野の長家_R

小野の長家 プレゼンボード

【住宅設計の趣旨および設計の特徴】

 基本方針は自然エネルギーを活用しつつ、不足分を高効率設備
で補うこととした。建物配置は南面隣家の影響をなるべく減らし、
最大限日照が確保できるように東西に細長い建物を敷地の北側に
寄せて配置した。
東西に細長く伸びた計画は、南庭へのつながりを各所に生み出
し、室内外両面で、空間を連続させつつ道路側のパブリックゾー
ンからプライベートゾーンへと曖昧に変化を持たせた。
室内は大きなLDK を中心に、夏場は日射遮蔽と天井扇による空
気対流、夕方以降の通風を考えた。冬場は、日射取得と蓄熱+薪
ストーブによって、心地よい室内気候を実現する。
家族図書室と寝室は区画でき、高効率エアコンで必要に応じて
暖冷房できる計画とした。

【基本スペック】

○竣工年:2009 年4 月
○面積
・敷地面積:242.76(㎡) ・建築面積:115.94(㎡)
・延べ床面積:147.59(㎡)
○構造:木造
○家族構成:夫婦、子供2人
○次世代省エネ基準地域区分:Ⅳb地域
○自立循環型住宅の設計要件
①自然エネルギー利用の可能性
・自然風の利用:工夫が必要
・太陽光の利用:工夫が必要
・太陽熱の利用:工夫が必要
・総合的な立地のポテンシャル:郊外型立地
②ライフスタイルの指向
・自然へのこだわり度:ふつう
・不快感を排除した安定した室内環境へのこだわり度:ふつう
○自立循環型住宅の目標像
■自然生活指向(自然を活用しながら省エネルギー設備利用と両立させる)

【採用した要素技術(自然エネルギー活用技術)】

○自然風の利用
■自然風の利用を採用する。
■立地2:自然風の利用に工夫が必要な過密型の立地
■手法1 直接的な自然風取り込み手法
・7月、8月は南南東からの風が多いことを過去の気象データとヒア
リングから確認し、南面の風上側の開口を大きめにとり、出口側の
北面の窓を適切に配置し流速や風の流れを計画した。二階寝室も室
内に手摺を設置することで、掃き出し窓で十分な通風を得る。
・また、東西に細長い計画のため、南北通風は非常に効果的に建物内
に通風が得られる。
■手法4 温度差換気の利用手法
・LDK の1室空間の最上部のロフトに、熱気抜き用の常時開放しやす
いガラスルーバー窓を設置した。
■手法5 室内通風性能向上手法
・LDK や子供室を一室空間とし、上下間の空気の流れを吹き抜け、階
段ホールを通じて循環できるように計画した。寝室、家族図書室等
の個室に区切る建具も全て引き戸とし、常時開放できるようにした。
○昼光利用
■昼光利用を採用する。
■立地2:太陽光の利用に工夫が必要な過密型の立地
■手法1 直接的な昼光利用手法
リビング、家族図書室、子供室、寝室

【採用した要素技術(建物外皮の熱遮断技術)】

○断熱外皮計画
■平成11年省エネルギー基準と平成4年省エネルギー基準の中間相当
の断熱水準(熱損失係数3.3W/ ㎡ K 以下)
○日射遮蔽手法
■日射遮蔽手法を採用する。
・主開口部の方位
■南
・主開口部について方位および庇の有無
■日射遮蔽に有効な庇等があり、開口部が真南±30°の以内の方位である
・開口部のガラスの仕様および日射遮蔽部材の種類
ガラスの仕様:普通複層ガラス
日射遮蔽部材の仕様:内付けブラインド

【採用した要素技術(省エネルギー設備技術)】

○暖冷房設備計画
■エアコンで暖冷房を行う。(方法1)
・最もよく使用するエアコン
■ COP(エネルギー効率)5.0 以上
家族図書室、寝室:ダイキンATC22KSE6-W
リビング:ダイキン ATR71KPE6-W
○換気設備計画
■手法4 換気方式の簡略化
○給湯設備計画
■手法3 高効率給湯機の導入
エコキュート:三菱 SRT-HP46C3
引き渡し時に「省エネモード」を説明し、住まい手の操作で省エ
ネモードに変更を確認。
■手法4 給湯設備各部の省エネルギー設計・工夫等
台所水栓:INAX JF-6450SX(節湯B)
サヤ管ヘッダー方式の配管工法
給湯配管の保温措置
○照明設備計画
■照明設備計画による省エネルギー手法を採用する。
■手法1 機器による手法
■電球蛍光ランプ
○高効率家電機器の導入 略
○水と生ゴミの処理と効率的利用
■水と生ゴミの処理と効率的利用を採用する。
■手法1 節水型機器の利用
■2004年代市販レベル
■その他の手法
外部水栓は全て浸透枡として施工。

【住まい手のコメント】

 オール電化になり、マンションと比べても光熱費はかなり下がりまし
た。風通しが良く、窓を開けていると、さわやかな風が吹き抜けます。
広いリビングも夏場でもエアコンもほとんど使わず、天井扇のみで快適
に過ごせます。また、日当たりも良いので、冬場でも晴れた日中は、太
陽光のみで十分暖かく快適です。照明も昼間はほとんど不要です。エア
コンの使用は、ほとんど家族図書室と寝室に限られるので、限られた空
間で効率よく使用できていると思います。冬はリビングでもエアコンを
少し使いましたが、子供が大きくなってくると薪ストーブ中心になると
思います。

【つくり手のコメント】

 心地よく暮らすために3つのステップで提案を行った。
1.気象データや隣家日影等を検討し、敷地を読みこんだ配置計画を行っ
た。また、基本的な建物性能(断熱性能、通風、日射取得、日射遮蔽等)
を確保した。これにより、生活の中でほとんど意識せずに省エネ+心地
よさを実践できる。
2.使い勝手が良く省エネ性の高い設備を導入した。季節や天候によっ
て、肌寒かったり、暑い場合は、性能の良い暖冷房設備によって、心地
よさはそのままに省エネを目指した。同時に、給湯や照明、家電も含む
家全体のエネルギー消費量や光熱費を試算し、打ち合わせ時から、住ま
い手と機種の選定を行うことで、住まい手の意識向上につながった、
3.設計したエネルギー消費量と月々の光熱費データから計算したエネ
ルギー消費量を比べることで、住まい手自身で住まい方が確認できる。
「毎月の光熱費データが通信簿みたい」と住まい手も楽しみながら生活
している。さらに、温湿度データの実測やヒアリングなど、引き渡した
後も積極的に関わることで、住まい手にあったライフスタイルを一緒に
考えていける。
これらの取り組みによって、住まいに愛着が生まれ、手入れや点検な
どを助長し、結果として住宅の長寿命化につながることを期待している。